2024年04月25日( 木 )

自社の存在価値は「地域貢献」にあり 高い利益還元意識も変わる事業環境(後)

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(株)ふくや

地域貢献の本領は「救済」も棚卸は不可欠

※画像はイメージ
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 同社は地域貢献の一環として13年4月に東区社領の製造工場「ふくやフーズファクトリー」の見学・体験施設をリニューアルして博多の食文化体験施設「博多の食と文化の博物館 ハクハク」を開業した。博多祇園山笠の3D映像コーナーや博多織・博多人形の展示コーナーなど地元文化の発信を付加したものだ。こうした取り組みもほかの体験型工場とは一線を画すが、福岡サンパレスやアビスパ福岡の支援に見られるように同社の地域貢献の真髄は資金難に陥った企業や事業の救済にある。

 13年に子会社化した(株)紅乙女酒造もその1つ。旧田主丸町発祥の紅乙女酒造は原料に「ごま」を用いた世界的にも珍しい焼酎を製造している。酒類品評会金賞などを受賞する折り紙付きの品質だ。ふくやの再建策はブランドをふくや色に塗り替えるのではなく、酒造の女性創業者の功績や情熱を積極的に発信する再建策を採っている。

 ふくやと同業の旧ヤマトの支援はふくやブランドを活用した。ヤマトは一時破産も視野に入れ廃業が目前に迫っていたことから事業承継を選択し、法人としてのヤマトは清算された。それでも承継企業の商号を「ヤマトバイオレッツ」に変更する配慮を示している。(株)ヤマトバイオレッツはグループの製造部門的な役割を担い、この2年で業績を4倍に拡大している。ほかにも業績好調な企業から「苦しい時に助けてもらった」という声が挙がる。こうした行為は健在化していないものも相当数に上ると見られる。これがふくやを「別格」たらしめる所以だ。

 現在、主なグループ企業は10社。(株)福岡サンパレスや(株)紅乙女酒造、(株)ヤマトバイオレッツや辛子高菜などの製造を手がける(株)仟など多くは食に関するものだが、(株)メディアシステムはコールセンター業務に関わるシステム開発や人材派遣で20年以上の業歴を有する。

 近年活発な動きを見せているのが、グループの資産管理会社(株)かわとしだ。ふくやが保有している不動産資産の一部が同社の名義になっており17年10月期の売上高は前年の4億3,000万円から大幅増収を遂げ25億7,000万円に急拡大している。現社長は就任したばかりだが、次世代への準備に着手したようにも映る。

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待ち受ける理念と収益力の継承への課題

 ヒットしたとはいえ「めんツナかんかん」は合計350万個。単純計算で合計でも約14億円。単価がとれる一本物の明太子のような商品ではない。同社はほかにもあらゆる商品を投入し、今後も新たな施策に取り組む予定だが、こうした商品の積み重ねの総合力で結果を出していくことになる。縮小する市場のなかで質・量ともにこれまで以上のスピードでの商品開発が求められる。同社は地域貢献への還元額増加を目指しているが、従来の延長線だけでは現状維持すら困難だ。増額にはグループ企業の躍進が欠かせない。先述の福岡サンパレスやヤマトバイオレッツはこの2期とくに好調だ。しかし、ほかに目を転じると、資産管理会社のかわとしを除きほかに好調な企業が見当たらないのが実情だ。紅乙女は再建道半ば、好調だったメディアシステムはこの2期連続最終赤字を余儀なくされている。救済こそが地域貢献の神髄だが還元額をアップさせるには玉石混交のグループ企業のたな卸しの時期が来ると見られる。

 実際に16年にグループの仕入部門だった(株)めんたいをかわとしに吸収合併させている。また今後業容が拡大し、利益の2割を地域貢献のために維持するには、組織や財務の透明性は不可欠。従業員への還元額との折り合いをいかにつけていくかも問われる。

 武浩氏は経営者としての集中力は3~6年が限度とし、10年後に次の経営者への承継を公言している。社内育成か外部招聘かいずれにしても一族経営は次第に終焉を向かえる可能性が高い。

 カリスマ兄弟が後ろに控え理念が身体に染み付いている現代表がかじ取りをする現在は70年の歴史においても盤石体制ともいえる。

 大きな組織変革が確実な次期経営者への継承へ向けて理念伝承、透明度の引き上げが求められる。さらに殺到する「地域貢献」依頼への対応を誤れば、感謝が怨嗟に変質しかねない。後継者育成、新市場開拓、新商品開発、理念浸透など、利益と還元の両立へ向けた難題が待ち受けている。

(了)
【鹿島 譲二】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:川原 武浩
所在地:福岡市博多区中洲2-6-10
登記上:福岡市中央区天神3-3-3
創 業:1948年10月
設 立:1980年8月
資本金:3,000万円
売上高:(17/3)148億円

(中)

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