2024年04月26日( 金 )

相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」 仲盛昭二氏 緊急手記(1)

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(協)建築構造調査機構 代表理事 構造設計一級建築士 仲盛 昭二 氏

 コロナウイルスによる混乱のなか、私がマンションの耐震問題を提起した理由、それは区分所有者の生命と資産を守るためだ。2005年に「姉歯耐震偽装事件」が起き、2007年に国土交通省は建築基準法改正により、建築確認の厳格化を図った。

 法改正後、構造計算の偽装は激減したが、いまなおゼロではない。1つの例が、東京の豊洲市場における(株)日建設計による設計偽装だ。日建設計は日本最大の設計事務所であり、東京スカイツリーをはじめ著名な建築の設計に関わっているが、豊洲市場設計も行っている。豊洲市場の設計偽装では、発注者で計画通知(民間の建築確認に相当)の審査を行った東京都が日建設計を擁護し、司法である東京地裁までも行政の東京都に忖度し、実質審理を行わないまま結審としたという、三権分立が崩壊した異常な事態となっている。

アンピールマンションにおける設計偽装

 福岡市のマンションでは アンピール香椎駅前およびアンピール百年橋において設計の偽装が判明したので、販売会社である新栄住宅(株)、設計事務所2社、建築確認を行った福岡市に対し質問書を送付した。

(新栄住宅からの回答)
設計事務所に確認したところ、当時の法令に則って適正に構造計算を行っており、違法性はない。行政の確認審査による確認済証ならびに完了検査による検査済証を受領しており、適切に計画されたものと考える。

(設計事務所2社からの回答)
新栄住宅に報告しているので、直接の回答はしない。

(福岡市建築指導部長からの回答)
確認申請書は保存年限を超えており廃棄されているが、建築確認当時の建築基準法の規定について審査を行い、適合を確認のうえ建築確認済証を交付したものと思われる。

 新栄住宅は「設計事務所に確認したが、問題ない」と具体的な回答を避け、設計事務所2社は「新栄住宅から回答するので、直接の回答はしない」と口裏を合わせた回答だった。福岡市は「確認申請書は廃棄しているが、適合を確認のうえ確認済証を交付したと思われる」という回答であり、適合を確認した具体的な根拠などは 一切示されていなかった。

新栄管理が構造計算書を紛失→「適正に構造計算」と回答の矛盾

 アンピール百年橋については、昨年末、売り出し中の物件の購入を希望されている人が、安全性を確認するために構造計算書の閲覧を希望し、仲介の不動産業者を通じて管理会社の新栄総合管理(株)に申し入れたが、新栄総合管理からは「構造計算書は存在しない」との回答であり、購入を断念したことがあった。

 建築確認申請書は、正本を行政が保管(保管年限あり)し、副本は管理組合に引き渡される。構造計算書を管理していた新栄管理が構造計算書を紛失したということになるが、筆者からの質問に対し、新栄住宅や福岡市は「当時の法令に則り、適正に構造計算を行っており、違法性はない」「建築確認当時の建築基準法の規定について審査を行い、適合を確認のうえ、建築確認済証を交付したものと思われる」と回答している。

 福岡市は、構造計算書を含む確認申請書正本を廃棄しており、新栄管理は、構造計算書を紛失している状態で、どのようにして「適正に構造計算を行っており違法性はない」ことを確認できたのだろうか(筆者は、図面により設計の偽装を確認している)。

 仮に、設計事務所に構造計算書が残っていて、この計算書を基に「適正に構造計算を行っていること」を確認したのであれば、筆者が指摘した事項を検討している箇所を構造計算書において示すべきだ。ただし、元請設計事務所に保管されている構造計算書は、多くの場合、確認申請時の構造計算書であり、審査の過程において修正が加えられるため、最終的に正しい構造計算書は、確認申請書副本に綴じられたものだ。確認申請書副本に綴じられているはずの構造計算書に基づいて、適正な構造計算であることを確認した根拠を示すことができなければ、新栄住宅も福岡市建築指導部も、背景には明らかにされては困る「不都合な真実」があると考えられる。

アンピール香椎駅前(震度7の地震を想定し製作したCG)

 先日、アンピール百年橋の区分所有者と名乗る方から、筆者に直接、電話があった。現時点で筆者は詳しい話をうかがっていないが、自身が所有し居住しているマンションの構造計算が偽装されていると判明したため、大きな不安を抱えていると考えられる。新栄住宅は、50年の歴史をもち、福岡都市圏を中心に150棟以上のマンションを販売している。
 今回の回答に見られるような不誠実さが新栄住宅の本質であるならば、指摘をした2件以外にも多くのアンピールマンションシリーズにおいて、設計が疑われることになる。すでに、何名かのアンピールマンション区分所有者の方から、筆者に対して問い合わせがきている。区分所有者の方に寄り添い、資産価値と安全・安心な暮らしを取り戻せるよう協力を惜しまないつもりだ。

(つづく)

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