2024年04月24日( 水 )

柳橋連合市場・ビル建替えまでの人間ドラマ(後)

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立ち上がった店主たち

 このジョイフル社の行為について、同組合で話し合いをするべく、組合員22店舗が申立人となり、16年10月15日付けで楠下理事長を筆頭とする理事会に対し、申立書を送付した。申立人が求めているのは、組合でジョイフル社の迷惑行為について、どのように対処すべきか話し合うこと、そしてまずその機会を設けることにある。そのため、組合員参加の緊急総会招集のために、まず緊急理事会を開いてほしいというものである。

 (協)運営上のルールに基づいた申立であり、組合員の意見を汲み取り、理事長、理事会が対応すべき事案であることは明白だった。

予想外の回答に唖然

 4日後の10月19日、申立人全員に届いたのは予想もしない相手からの文書だった。なぜなら、その送り主が迷惑行為の張本人・ジョイフル社だったからだ。申立書の回答がなぜジョイフル社から来るのか。もともと楠下理事長とジョイフル社の関係は、これまでの総会での発言を通じて、「密接である」と暗にわかってはいても、今回の行為に申し立てた組合員の受けたショックは大きかった。

 ジョイフル社の回答文書には、「組合員はその『宅地』を長年、タダで利用していたが、当社が高額で土地を取得した。いつまでもほか人の宅地をタダで利用するという考えは捨てましょう」と意見を締めくくっていた。しかし、ジョイフル社の見解を聞いているのではない。目的はあくまで総会の招集。理事長が申立を無視する状況に、理事長および理事会の責任放棄、職務放棄と見なさざるを得なかった。

総会を開きたくない理事長

 組合員らの申立書の回答をジョイフル社に任せた挙句、理由もなく総会開催を拒否。理事長にはどうしても総会を開きたくない事情があった。

 11月1日、組合員は申立人を中心に自主的に集会を開催。組合法に則って、正式に臨時総会の開催を申し立てていることを確認。通路を封鎖する衝立の撤去をジョイフル社に求めることで、意見を統一させた。再度、理事会に総会開催を申し立てることを決めた。これまでのジョイフル社による嫌がらせ行為やジョイフル社に肩入れする理事会の理不尽な対応もあり、組合員は不信感を募らせていた。

 こうして、それまでバラバラだった各組合員が、1つの目的のために一致団結した。組合員同士のコミュニケーションが増えたことも間違いないが、市場の現状とそして将来の市場のあり方を見つめ直し始めた。一連の出来事から「ほか人事ではない。このままではいけない」―と、危機感を強くしたのはいうまでもない。再度の申し立てにより、次回総会の開催が決まった。申立人らは、理事会の矛盾を指摘する材料を準備していたのだが、理事会はその存在を知る由もなかった。

理事長辞任、背任行為

問題となった合意書

 

 11月28日、組合員からの申立による臨時総会が開催。当日の臨時総会では、事前に配布された3つの議題について話し合いがもたれた。司会を務める楠下理事長の先導のもと、協議は進んでいたが、2つ目の議題を終えると総会を閉めようとした。

 残された議題は、共同事務所移転の合意書について、だった。組合員から「まだ議題が終わっていない」と解散を引き留める発言が飛び出し、楠下理事長への追及が始まった。
 組合員が示したのは、1枚の合意書。これはジョイフル社がテナントとの調停時に、証拠資料として裁判で提出されたものだった。組合理事長の印鑑が押してあるが、日付は数カ月も前の6月24日。この日は、移転を話し合うための2度目の総会が行われた日だ。しかし、組合で移転に合意したのは、8月に入ってからだった。つまり、組合の総意を得る前に、理事長が移転に合意していることになり、背任行為にあたると組合員は主張した。

 これに対し楠下氏は、反論することなく、理事長辞意を表明。そして、総会は終わった。

組合員勝利目前で引き分け

 辞任表明から数日後、楠下氏は辞任を撤回。あくまで肩書にしがみつこうと必死だった。それでも責任感のないリーダーに組合員がついていくわけはない。不信感がさらに深まった状況にあり、次回総会で理事長の解任決議が行われるのは目に見えている。

 当時を思えば、楠下氏が自ら辞任を述べたときに、組合法に則って解任動議を採決し、多数決を取っておけばよかったのだろう。背任行為を指摘した組合員も、理事長の性格上、自らが辞任を告げるとは想定していなかったのだろう。組合組織の再編は翌年に持ち越しとなった。

発足以来初の理事選挙

 組合設立の1992年以降、組合理事らは指名制で就任していたが、2017年4月、初の理事選挙が開催された。選出される理事数は5名で、現職5名、新人5名が立候補した。現職立候補者には、理事長の楠下氏も含まれていた。青年部のメンバーが多く、立候補したのは現体制への不満の表れでもあった。

 即日開票され、選出されたのは青年部中心の新人4名と前理事から1名。組合員は理事会の一新と若返りを選択した。これまで長年にわたり理事長を務めてきた楠下氏は、あえなく落選した。

 新理事長に就任した(有)古賀鮮魚店の古賀和秀氏は「透明性のある組合運営で、福岡市の財産となる市場を目指したい」と語っていた。

退去をめぐる裁判、和解

予定建築物標識

 ジョイフル社がテナントの立ち退きを求めて、裁判を起こしてから約1年となる17年9月。長期にわたる裁判にいよいよ決着がついた。入居テナントはジョイフル社の退去和解案に合意し、10月に仮店舗に移転した。そして12月、ビルの解体工事が始まった。これまでの説明の通り、市場内関係者の多くがジョイフル社による建替え計画が進んでいると思っていた。しかし、12月14日付けで、転売されていたことが判明。土地を購入したのは、福岡市中央区に本社を置く「新榮都市開発(株)」だった。

 18年1月11日、マンション建替えについての説明会が開催された。12月11日付で配布された説明会の案内文書には、ジョイフル社が事業主と記載されたままだった。正式な工事名は「(仮称)春吉1丁目マンションプロジェクト」で、地上13階建のマンションが建つことになる。2月初旬に着工し、来年9月を竣工予定としている。事業主は(株)ジョイフルコーポレーションで、施工は(株)旭工務店、設計は(株)JIN建築設計が担当する。

 説明会参加者によると、ジョイフル社は土地の所有者が変わったことには一切触れなかった。説明会で土地所有者である新榮都市開発の紹介はなく、事業関係者としての列席もなかったという。ジョイフル社にはマンションを建築するまでの資金的な余力はないと予想されていたが、その通りの結末となった。

 1棟のマンション建替えを通じ、多くの人間模様を見てきた。すべての建築物にはドラマがある。この間、将来的な大規模再開発を見込んでか、市場内の不動産売買も活発化している。昨夏より所有名義の変わった土地も複数確認されている。取得者は市内不動産業者の関連会社や、不動産業者ではない県内企業から、ジョイフル社とは別の東京の企業もある。市場内でいえば、次は(学)山内学園が所有するマルキョウ跡地の今後が気になるところだが、一帯の再開発を検討しなければ、市場の将来は明るくならない。現理事長のいう「福岡市の財産となる市場」を実現するまでには、今よりもさらに多くのドラマが生まれることだろう。

(了)
【東城 洋平】

 

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