2024年03月29日( 金 )

建設・不動産業界法律相談 固定残業代の運用上の問題点

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

岡本綜合法律事務所 岡本 成史 弁護士

 賃金制度において、「固定残業代」制度を導入していますか? 「固定残業代」は、実際の時間外労働などの有無や時間外労働の時間にかかわらず、一定時間分の定額の割増賃金を支給するというものです。たとえば、「営業手当は、月間20時間分の時間外手当を含む」というような賃金の定め方をしているものが、これにあたります。

 適切に運用されている限りは、従業員にとっても、残業が少ない月でも安定した収入が見込めるというメリットがあります。一方で、事業者側には固定残業代を導入するメリットはほとんどなく、逆にリスクが大きい制度です。しかしながら、月に5万円程度の残業代が常に発生する場合に、求人などで「基本給15万円、別途時間外手当支給あり」と書くよりも、「基本給20万円(ただし、一部固定残業代を含む)」としたほうが、「待遇が良く見えるから」とか、さらには「固定残業代を払っていれば、それ以上の残業代を払わなくていい」という勘違いから、この制度を導入している事業者が相当数見受けられます。

 しかし、現実の時間外労働により発生する割増賃金が固定残業代を超えた場合に、固定残業代しか支給せず、それを超えた差額賃金を支給しないということは違法であり、このような場合、従業員は差額賃金を請求することができることになります。

 また、不適切な運用をしていると、「固定残業代」の残業代としての性質が否定され、事業者がまったく残業代を支払っていなかったものとして扱われるだけでなく、「固定残業代であると考えていた手当」まで割増賃金の基礎賃金に算入されてしまいます。その結果、従業員の時間単価が高くなり、その時間単価で計算した多額の未払残業代を支払わなければならなくなるという、不測の不利益を被ることになります。

 このような事態を避けるため、固定残業代制度を使う場合は、それが固定残業代として有効と認められるよう、適切な運用をする必要があります。第1に、就業規則や賃金規程、労働契約などにおいて、明確に定めておくことが必要です。また、定める内容についても、(1)「通常の労働時間の部分と固定残業代の部分を明確に区分できること」、(2)「固定残業代が何時間分の時間外労働の対価であるのかを明示すること」、(3)「固定残業時間を超過する労働分について別途手当を支払うこと」を明示していることが必要になります。

 前記の要件についても、近時の裁判では事業者側に厳しい判断が示されており、なかなか素人では適切な運用が難しい点があります。就業規則の改訂などを通じた制度の導入・見直しや制度の適切な運用について、継続的に弁護士に相談するなどして、トラブルにならないよう心がけてください。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。福岡県建築紛争審査会委員、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士 岡本綜合法律事務所

 

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事