2024年03月19日( 火 )

災害は他人ごとではない~広範囲に被害をもたらした悪夢の豪雨

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 九州北部から中国・四国地方などの西日本を中心とした多くの地域で、河川の氾濫や浸水害、土砂災害を引き起こし、200人を超える死者を出した「西日本豪雨」(正式名:平成30年7月豪雨)。平成以降に発生した豪雨災害としては初めて死者数100人を超え、「平成最悪の水害」とも報じられた。福岡県においては、昨年の「平成29年7月九州北部豪雨」に引き続き、2年連続で豪雨災害に見舞われたかたちだ。

多くの犠牲者を出した「平成最悪の水害」

▲川沿いの道路が陥没(筑紫野市永岡)

 今年6月下旬、梅雨前線が日本付近に停滞していたなかで、6月29日に南海上で台風7号が発生した。台風7号は7月4日にかけて東シナ海を北上したが、これにより日本付近に暖かく湿った空気が供給され続けたことに加え、梅雨前線の影響により、7月6日から8日にかけて、西日本を中心とした広い範囲で月降水量の平年値を超える記録的な豪雨となった。

 これを受けて、7月6日夕方5時ごろに長崎、福岡、佐賀の3県に大雨特別警報が発表されたほか、同日夜7時ごろには広島、岡山、鳥取に、さらには夜11時ごろには京都、兵庫と、1日で8府県に大雨特別警報が発表される事態となった。さらに翌7日には岐阜、8日には高知、愛媛の2県でも大雨特別警報が発表されるなど、最終的には11府県186市町村で大雨特別警報が発表された。これは2013年8月の特別警報の運用開始以降、過去最多。

 7月9日、気象庁はこの一連の豪雨に対して、「平成30年7月豪雨」と命名した。ただし、報道機関などにおいては気象庁による命名前より「西日本豪雨」という名称が使われており、命名後もこの名称を継続して使用しているところが多い。

 今回の豪雨では、西日本を中心とした多くの地域で、河川の氾濫や浸水害、土砂災害などが発生。上水道や通信などのライフラインも多大な被害を被ったほか、道路や鉄道などの交通インフラにも広域的な障害が発生した。また、多くの人的被害や建物被害も出ており、消防庁によると8月21日時点で、死者221名、行方不明者9名、重軽傷者計387名、建物全壊6,206棟、建物半壊9,761棟、床上下浸水2万9,092棟。豪雨によって100人以上の死者が出たのは1983年の「昭和58年7月豪雨」以来となり、平成に入ってからは最悪の死者数となった。

筑後エリアを中心に福岡県内でも多くの被害

▲冠水した「イオン小郡ショッピングセンター」
 (小郡市大保)

 ここ福岡県内においても、西日本豪雨により多くの甚大な被害がもたらされた。

 人的被害では、7月3日に台風7号による強風にあおられて高台から転落し、福岡市城南区で1人が死亡。7月6日朝には、北九州市門司区でガケ崩れが発生したことで、住宅が全壊して2人が死亡。さらに宇美町在住の1人が避難中に土石流に巻き込まれて死亡するなど、一連の豪雨により計4人の死者が出た。また、建物被害では全壊14棟、半壊193棟で、床上下浸水は3,204棟。県内自治体のなかでも、とくに影響が大きかったのは、広範囲な浸水被害を受けた久留米市だった。

 久留米市では今回の豪雨で、建物の床下浸水1,545棟、床上浸水202棟となり、県内の被害のほぼ半数が集中したかたちだ。とくに被害が大きかったのは北野町、城島町、合川地区の3地区で、久留米市では農産物にも多大な被害が出た。また、九州自動車道「久留米インター」周辺の合川地区などの一部地域では複数の商業施設に冠水被害が出た。210号線バイパス(久留米東バイパス)沿いの東合川地区一帯では、大規模な浸水被害が発生。周辺道路が冠水した「ゆめタウン久留米」では何とか営業休止を免れたものの、そのほかの「ドン・キホーテ楽市楽座久留米店」や「ジョイフル東合川店」「ジョイント久留米店」「明治屋ジャンボ市 久留米店」などでは、一時営業休止を余儀なくされた。なお、「サンドラッグ東合川店」や「コメダコーヒー店久留米インター店」など、8月22日現在もいまだ営業休止が続いている店舗もある。

 福岡県小郡市の「イオン小郡ショッピングセンター」は、7月6日の大雨で冠水の被害に遭った。運営会社のイオン九州によると、今回の豪雨で施設の近くを流れる宝満川が氾濫し、駐車場および施設内に水が進入。大規模商業施設が水没するというショッキングな光景が、SNSなどで拡散され、注目を集めることとなった。これにより同店は、6日午後からの営業休止を余儀なくされた。その後、一夜明けて水は完全に引き、翌7日朝から従業員らが復旧作業に追われた。現場では、施設の南側にあるフードコート内には商品などが散乱し、ドアや自動販売機などには高さ1m30cm近くまで水の痕跡が。また、駐車場には窓ガラスをガムテープで補修された車など、災害の爪痕が生々しく残っていた。同施設はもともと、農地を転用した敷地に建てられていたため、通常の宅地よりも低い位置にあり、そのことが被害を拡大させた大きな要因とされる。同施設は冠水して以来、いまだ営業休止を余儀なくされており、8月22日現在もまだ営業再開のメドは立っていない。

 筑紫野市内では、線路や道路に水が溢れ、陥没した箇所も見られ、水の勢いを物語るように河川の法面が崩れ落ちてしまっているところもあった。山手では地すべりなどの土砂災害が多発し、道路を寸断し交通に大きな障害が発生。同市永岡では、川沿いの道路が数十mにわたって大きく陥没し、カーブミラーは曲がり、アスファルトは砕けて落下した。現場は川が緩やかにカーブしている箇所で、水圧により負荷がかかり、川肌を削ったとみられる。辺りは民家やマンションが並ぶ一帯で、崩落部分は民家の目前。近隣住民の生活に大きな支障が出た。

 福岡県大刀洗町菅野にある筑後川支流の小石原川に架かる「菅野橋」(長さ約60m、幅約2m)では、7月14日早朝、橋桁を支える中央部の橋脚が傾き、川底に1m近く沈み込んで橋桁がV字に折れ、通行ができなくなっていることが確認された。6日の西日本豪雨で川が増水して橋脚の基礎部分が削られ、川底が不安定になっていたことが原因とみられている。大刀洗町では橋の昼夜間全面通行止めを実施するとともに、原因調査や復旧方法などを検討していくという。

 福岡市内では、豪雨の影響で室見川などでの氾濫の危険性が高まり、河川周辺で避難指示(緊急)が発令された。だが、同市では肝心の緊急システムに不具合が見つかるという事態となった。福岡市では、同月5日から発生した西日本豪雨にともなう緊急情報の情報配信について、一部で遅延する事象が発生していたことを7月13日に発表した。遅れが生じていたのは、LINEやメールによる「福岡市緊急情報」。実際にあったケースでは、「06日18時35分 南区の一部に『避難指示(緊急)』を発令しました。(中略)直ちに避難してくださいという内容の配信が、翌7日の深夜午前1時29分に届いていた。この情報配信の対象者は約7万人。福岡市によると、「緊急情報を50件連続で発信したことで、サーバーの性能不足から遅延が発生した。災害発生中に市民からの問い合わせもあり、気づいていたが対応できなかった」という。遅延の程度は、通信環境によって異なるといい、福岡市は、「再発防止に向け、原因究明と現時点ででき得る改修を実施した」としている。

 福岡・大分両県で合わせて40人が犠牲となった17年の「九州北部豪雨」で甚大な被害を受けた朝倉市では、2年連続して大雨警報を発令する事態となった。朝倉市は、激しい雨が予想されることから7月5日午後、市全域に避難勧告を発令。さらに土砂災害が発生する恐れがあるとして一部地域に避難指示を発令した。奇しくもこの日は、昨年の「九州北部豪雨」からちょうど1年にあたり、同市杷木久喜宮の「朝倉市多目的施設・原鶴地域振興センター」(愛称:サンライズ杷木)では午前10時半から「平成29年7月九州北部豪雨災害 朝倉市追悼式」が開催され、朝倉市長・林裕二氏が「二度と犠牲者を出さない、命を守る安全な地域づくりを市一丸となって進めていきます」と固く誓ったばかりだった。そうしたなかでの同日の避難勧告発令は、何とも皮肉としかいいようがない。なお朝倉市では、今回の豪雨でも応急仮設道路が川の増水で大きく削られたほか、仮設の橋も崩落するなど、農地や道路、河川などでさまざまな被害が発生した。昨年の豪雨災害からの復興も道半ばであり、その道のりはさらに遠のいたとみられる。

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 今回の西日本豪雨では、8府県が自衛隊に災害派遣の要請を行った。自衛隊では災害派遣の要請を受けて、これまでに延べ約3万人の隊員が人命救助やがれき撤去、入浴支援などに当たっていたが、活動の必要性が解消されたとして、8月18日に岡山県が撤収を要請。この時点で自衛隊は、被害の大きかった広島および愛媛両県などからもすでに引き揚げており、同日をもって被災地での任務はすべて終了となった。

 こうして自衛隊の災害派遣が撤収したことにより、喫緊の状況は一応収束したといえよう。だが、豪雨災害の爪痕は大きく、現在も避難生活を余儀なくされている被災者が数多くいるうえ、いまだ復旧に向けてのメドが立っていない被災地も少なくない。昨年の九州北部豪雨でもそうだったが、これから復興に向けての長い戦いが始まっていくことになる。

【特別取材班】


制度見直しで迅速な決定が可能に 復旧・復興を後押しする激甚災害指定

西日本豪雨を指定

 日本政府は7月24日、西日本を襲った記録的豪雨を含む大雨被害の激甚災害指定を閣議決定し、同月27日付で公布・施行を行った。国から被災自治体の復旧事業に対する補助率を1~2割程度引き上げることで、自治体の財政負担を軽減し、道路や河川、農地などに加え、学校や公民館などの公共施設の復旧事業を後押しする。指定対象は、2018年5月20日から7月10日までの間の豪雨および暴風雨による災害で、対象地域は全国として地域の限定は行わず、西日本豪雨より前に発生した北海道の大雨被害も含んでいる。

 激甚災害とは、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(激甚災害法)に基づくもので、大規模な地震や台風などの著しい被害をおよぼした災害のうち、被災者や被災地域への助成や財政援助がとくに必要と認められる災害を対象としたもの。近年では2016年に発生した熊本地震や、17年に発生した九州北部豪雨などが指定されていた。指定については、中央防災会議が定めている「激甚災害指定基準」(本激の基準)および「局地激甚災害指定基準」(局激の基準)に基づいて行われ、激甚災害に指定されると、地方公共団体の行う災害復旧事業などへの国庫補助のかさ上げや中小業者への保証の特例など、特別の財政助成措置が講じられることになる。

改善後初の適用

 従来の激甚災害指定は、自治体が調査した被害額を関係省庁が細かく査定し、その後に中央防災会議の意見を聴いたうえで閣議決定されていたため、指定が決定されるまで数カ月を要することもあった。だが、被災自治体から迅速化を望む声があがっていたこともあり、17年12月21日、中央防災会議の幹事会で、運用を見直しすることを決定・公表。災害発生を受けて国が被災地に職員を派遣して被害状況の調査を実施し、被害額の見込みなどの報告を基に、内閣府が激甚災害の指定基準を満たすと判断した場合、速やかに中央防災会議の答申を経て指定するかどうかの見通しを公表することになった。これにより、早ければ1週間で指定の見込みを公表することができ、被害の全容が判明する前に方針が決定されることで、スムーズな復旧・復興を後押ししていく方針だ。そして、運用改善後の初の指定となったのが、今回の西日本豪雨だった。

 近年、時間雨量50mmを超える雨が頻発し、雨の降り方が局地化・集中化・激甚化の傾向にある。また、今年6月に発生した震度6弱の大阪府北部地震を始め、最大震度4以上を観測する地震も頻発してきている。こうした自然災害は、日本各地どこでも起こり得る可能性があり、平時より災害後を想定した「事前復興」などの考え方の下、災害弱者対策や建造物の耐震・耐火性の強化、道路拡張、防災拠点の設置などを進めておく必要があるだろう。

 しかし、実際に災害が発生した場合、その後の復旧・復興を強力に後押しするのは、政府による激甚災害指定だ。とくに、財政的に厳しい地方自治体にとっては、補助金の割合引き上げなどの助成および財政援助などが最大にして最重要のメリットとなる。今後は、各自体ごとに復旧・復興へ向けて取り組むのと同時に、今回の豪雨災害で新たに噴出した問題点などを教訓化しながら、近い将来に起こり得る次なる災害に向けての対策を講じていくことも必要だろう。

【坂田 憲治】

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