世界をけん引する
     日本の種苗業界

研究開発部 部長 諸岡 譲 氏
中原採種場(株) 研究開発部 部長 諸岡 譲 氏

中原採種場(株)

野菜や果実を生み出す原点にある種苗業界。なくてはならない業種にも関わらず消費者にとっては見えにくいのが実情だ。遺伝子組み換え・品種改良・TPPといった農業に関わる問題も深く関わっている。それぞれの問題は、日本の農業にどのような影響を及ぼすのだろうか。

遺伝子組み換え作物の実態
他国籍企業の世界戦略

  スーパーなどの店頭で、「この製品は遺伝子組み換え大豆を使用していません」という表示をされた豆腐・豆乳などの大豆製品を見かけることも多い。遺伝子組み換え表示を見かけては漠然と怖いというイメージを抱くことも多々あるとは思うが、実際に遺伝子組み換えの何が怖いのか把握している消費者は少ない。
  安全性が確認できないという理由で、遺伝子組み換え品種は日本国内での栽培はできない。日本国内で実験的に栽培されてはいるが、国内で生産された遺伝子組み換え作物が国内に流通するということはまずない。
  しかし、世界に目を向けてみると、遺伝子組み換え品種は増加していく一方である。
  福岡市博多区に本拠を置く種苗メーカー中原採種場の、研究開発部を統括する部長の諸岡譲氏によると、遺伝子組み換え品種は、生態系を変えてしまうことと多国籍企業が農業を通じて、国家レベルで支配できる可能性があることが怖いのだという。
  農業関係の世界メジャー企業は、農薬・種苗など、あらゆる分野を手がけている。世界戦略として積極的に遺伝子組み換えを研究しており、その世界戦略に呑み込まれているのはインドや南米。そこでは、多くの遺伝子組み換えの大豆、トウモロコシが栽培されている。たとえば、遺伝子組み換えによって、農薬をかけても枯れない大豆の品種が存在する。それを導入している。ブラジル・インドなどの大豆のほとんどは、遺伝子組み換えの品種。種苗メーカーが遺伝子組み換えの特許と、対応する農薬も同じメーカーが持ち、その企業が遺伝子組み換え作物の世界市場シェアのほとんどを持っていることになる。つまり、一部の多国籍企業が食料を支配することで、他国を支配することが、可能となるのだという。
  「遺伝子組み換え品種のなかには、除草剤をかけても枯れないものがあります。たとえば、遺伝子組み換えなどによって、何か表面に変な病気が出てくることですぐに体に悪い影響があるということはないかもしれません。しかし、生態系を変えていき、それが自然を破壊していく可能性というのは十分にあります」(諸岡氏)。

遺伝子組み換えに対抗する
日本の種苗技術F1

  もし、日本に遺伝子組み換え技術が流通すれば、日本の種苗メーカーでも生き残れるのは少数だろうという。韓国では、遺伝子組み換え技術も含め、対抗できる技術力がなく、種苗メーカーのほとんどがアメリカやヨーロッパの外資系に吸収されてしまい、わずかしか残っていないという。
  それでは、日本種苗メーカーは、何か対抗できる術はあるのだろうか。
  「日本の種苗メーカーには『F1』と呼ばれる技術があります。一代雑種と言われるもので、第一世代目の子孫のことで、遺伝子型は均一です。雑種第一代の示す形質が両親のいずれよりも優れる場合、この現象を雑種強勢と言います。とくに前述の雑種強勢を利用して、より有用な形質を伸ばす方向に品種改良されたものは、品種改良などに使われています。F1の品種は、均一で高品質で病気に強い特性を持つものがあります。しかし、できた生産物から種を取ると、その種からできるものは、特性を引き継ぎません。つまり、同じ品種をつくるには、両方の親を持つ必要があり、毎回交配しないといけません。F1をつくる技術は、繊細で正確な作業が要求されるので日本人には向いています。そのため、海外からの脅威というものは、あまり感じません。遺伝子資源をきちんと管理、維持しておけば海外から盗まれることもありません。これは、日本の種苗メーカーの強みとも言えます」(諸岡氏)。

消費者の要望はさまざま
トレンドは加工適性

  種苗メーカーも顧客からの要望は多く、常に品種改良を求められる。
  高度経済成長期後は、重量があり、とにかく大きくという要望が多かったという。子どもが多く、栄養を取ってどんどん食べないといけないため、野菜もサイズが大きいものが人気だったそうだ。
  その後、少子化・核家族化となり、手のひらサイズのかぼちゃなど、お一人様用の小さな野菜の要望が高まった。最近では、加工適性のある品種が求められるのだという。おでん用大根だと、コンビニのおでん容器のマスのなかにちょうどよく入るサイズ。長さも、加工しやすいように、決められたサイズで、均一に出荷できる品種。
  「料理をしない人が増加したことで、代わりに伸びたのが弁当、惣菜などの中食です。そうなると、加工適性のある品種を求められます。その他には、栄養価の高いものが求められるようになりました。高齢化、少子化という状況で、量が少なくても機能性や栄養価などが濃縮されたものが要求されます。弊社のスプラウト・シリーズは、このコンセプトです」(諸岡氏)。
  品種改良では、「ブリーダー」と呼ばれる専門スタッフが多くの部分を手作業で交配を行ない、実験を繰り返して品種改良を行なうという。ブリーダー1人あたり30?40年かけて、実用化できるものが3品種できれば良い方だという。

日本の農業の
未来はいかに?

青島昌農種苗有限公司農場
青島昌農種苗有限公司 農場

  「国内の農業は、高齢化や後継者不足もあり、現状維持が精一杯の現状です。また、農業は商業、工業と比べ、一番難しいのではないかと思います。今は異常気象などもあり、平年より2?3割減などは普通です。農業は、1年先の予測さえできない職業だと思います。新しい動きとして、国が支援していることもあり、異業種参入型の企業も増えました。また、環境に左右されない植物工場を展開する動きもあります。日本の得意のハイテク技術で農業をやっていくという考え方です。また、期待されているのは、震災復興です。外の環境と遮断され、水も土も空気も制御できるので、実際、東北にも導入されています」(諸岡氏)。
  同社も植物工場での研究を行なっている。たとえば、同社の技術力を用い、南極観察隊が昭和基地で同社製造の種(サンチュ、バジル、モヤシ、カイワレ)を使った、野菜の水耕栽培を行なっており、水耕栽培の技術が南極での食糧の確保にも役立っているという。農業に関しても、一般に考えられるところよりもさらに広い範囲で活用されている。
  ほかには、農業を取り巻く問題として、TPP問題があり、世間的にも注目されている。
  「あまり知られていませんが、野菜は、鮮度の問題で輸入がそれほど多くありません。そのため、野菜の国内自給率は極めて高いです。逆に、野菜や種苗は、日本ブランドの輸出の有望な品目として、もっと評価されるべきだと思います種苗メーカー各社は、今まで国からのサポートも少なかったため、必死に生きる道を模索し技術力を高めたり、海外進出を積極的に行ないながら、現在に至っています。農業も今後、必死に生きる道を模索しチャンスをつかむときかもしれません。これが、農業再生の1つのヒントになってくれればと思います」(諸岡氏)。

(柚木 聡美)

COMPANY INFORMATION
中原採種場(株)
代 表:内村 清剛
所在地:福岡市博多区那珂5-9-25
創 業:1950年7月
資本金:2,000万円
TEL:092-591-0310
URL :http:///www.nakahara-seed.co.jp/

中原採種場