避難、経済的被害と続けたが、やはり最も問題視すべきは生命にかかわる被害だ。放射性物質による被害は、周知のとおり外部被曝と内部被曝に分けられる。外部被曝と言うのは、放射性物質が体内にない場合のことだ。レントゲン撮影、宇宙線、自然石、冷戦時代の放射性物質の名残などによって、何事もなくても自然と放射線にさらされている。それが外部被曝だ。
一方内部被曝は事情が異なる。放射線を発する物を体内に取り込んでしまったために、内側から放射線を浴びてしまうことを内部被曝という。一寸法師が外から肌を針で刺すか、内側から内臓を針で刺すかの違いと思って間違いないだろう。
外部被曝と内部被曝では、大きく被害が異なる。いずれの場合も多量の放射線に曝(さら)されれば、生命に関わることには違いはない。しかし、影響を与える方法が違うので、ひとからげに考えることは避けた方がよい。これには、放射線の種類と放射性元素の種類が深く関係する。
そもそも、放射線というのはエネルギーのようなものである。電子レンジのマイクロ波、ラジオ、テレビ、携帯電話などの電波、可視光線などの光などの一種と考えればよい。原子が不安定な状態(原子の構成要素である陽子と中性子、電子が安定した数ではない状態)にあるとき、安定させるために放出するもの、それが放射線だ。天秤を水平に保つためには双方の皿に同じ重さの分銅をつるさねばならない。いわゆる放射能がない普通の物質は天秤が安定した状態にあるわけだが、片側が重い状態になっているのが放射性物質である。傾いた状態の原子は、それを是正するために重いほうの皿から少しずつ分銅を減らしていく。それが放射線なのだ。そのときに、どの要素を減らしていくのかによって、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線といった違いが出る。アルファ線は陽子2個、中性子2個が塊になって飛び出すものを言う。つまり原子番号2番、質量数4のヘリウムの原子核がアルファ線の正体である。
旧ソ連時代の元諜報員、リトビネンコ氏の暗殺はポロニウム210によるアルファ線内部被曝が原因であると言われている。このアルファ線は透過力が非常に弱く、紙一枚で止めることができる。そのため、外部被曝の場合ならば、屋内にいる限り問題にならないものである。一方内部被曝の場合には大きな質量を持った物質(ヘリウムの原子核)が飛び散るのだから、少しの量でも死に致ってしまう。プルトニウム239が最も危険な放射性物質と呼ばれるのも、このアルファ崩壊と長い半減期(2万4,000年)に由来している。
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