シーベルトは生物への影響を示す数値だが、これだけでは人への害悪は十分に表せない。これまたよく聞く半減期というやつが関係するのだ。核分裂をする物質は、徐々に安定した(放射能がなくなった)物質に変化していく。生まれてすぐの放射性物質の放射能が10だとすると、安定した物質になったときの放射能は0(実際には0にはなり得ず、0に近い数値に徐々に近づいていく)だ。その時系列をとると、ちょうど反比例のグラフを描くようになる。10の放射能が5になるまでの期間が半減期なのだ。8日の半減期をもつセシウム131で考えてみよう。ヨウ素131を持ちこんだ日の放射能が10ベクレルならば8日目で5ベクレル(50%)、16日目で2.5ベクレル(50%×50%)、24日目で1.25ベクレル(50%×50%×50%)、32日目で0.625ベクレル(50%×50%×50%×50%)・・・という具合に減少していく。これが物理学的な半減期である。
これとは別に、生物的半減期というものがある。これは、代謝を勘案したもので、物質がどの程度の期間体内に残るか、という目安である。プルトニウムは、長い半減期(2万4,000年)を持つために、摂取した者の体内をアルファ線で傷つけ続ける。しかし、プルトニウムは人体にとって必要ない物質である。そのため排出されやすい。生命というのは非常によくできたシステムで成り立っている。要るものは取り込み、要らないものは排出する。プルトニウムは後者、要らないものなのである。たとえば100gのプルトニウムを摂取した場合、0.05gが体内に残り、99.95gが排出される。その体内に残った分が半分になる期間(先の例では0.05gが0.025gになるまでの期間)が生物学的半減期と呼ばれており、プルトニウムの場合は20年(肝臓に蓄積されたもの)から50年(骨に蓄積されたもの)と言われている。
一方、ヨウ素などは生命にとって必要なものだ。生物の細胞は元素の種類までは見分けられるが、同位元素までは見分けがつかない。ヨウ素は、安定ヨウ素であれ放射性ヨウ素であれ、のどぼとけの下にある甲状腺に取り込まれてしまう。原発事故が起こったときに安定ヨウ素剤を服用するのは、安定(放射線を出さない)ヨウ素で甲状腺を満たして放射性ヨウ素を取り込むのを防ぐためである。プルトニウムが人相の悪い悪人だとしたら、ヨウ素はネコをかぶった詐欺師のようなものなのだ。ヨウ素131の半減期が8日であるのに対して、生物学的半減期は160日なのである。これが生物学的半減期だ。プルトニウムと違い、こちらは生命にとって必要な元素であるため、入ってきた順に取り込まれていってしまうのだ。
物理学的半減期は体外被曝、除染の際の目安と捉え、生物学的半減期と物理学的半減期を併せたものが体内被曝の目安と考えるのが正しいだろう。物理学的と生物学的は、同じ半減期という言葉がついていても、土俵が異なるので注意が必要だ。
※記事へのご意見はこちら