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大さんのシニア・リポート~第3回 高齢者を地域で支えるというけれど(後)
社会
2012年8月21日 10:19

 しかし、日本住宅公団の腹づもりは「大都市再興のための、労働力確保用ベッドタウン建設」だから、「田園都市構想」とは中身が違う。職場は大都市だから、たちまち交通は渋滞し、長距離通勤の弊害が出た。
 公団は多摩ニュータウンに企業誘致のための業務区域も設けていた。しかし、具体的な青写真が描けないままグリーンベルトは虫食い状態。「34万人ビッグ都市」という目論見も、最終的には19万人で終えた。企業誘致は失敗し、広大な空き地は塩漬け状態のまま残された。その未利用地(とくに駅周辺)に、民間の高層マンションが建つ。そこに新住民が入り、ニュータウン奥地にある老朽化した分譲団地にいた若者や若夫婦たちが入った。

 わたしが取材した多摩ニュータウン永田地区は見事に丘陵の斜面を利用した団地で、奥へ行くにつれて高台となる。その多くが4・5階建ての中高層住宅でエレベータがない。さらに分譲と賃貸住宅、それに公営住宅が混然と建てられ、街としての機能を持たせた再開発は超難問とみなされていた(最近、隣接する諏訪地区の一部の分譲住宅で建て替えがはじまった)。
 永田地区の一番奥にある分譲団地(エレなし)に住む高齢女性は、重いペットボトルを抱えて3階まで上がりながら、「息子夫婦は駅前のマンションに移りました。わたしにも一緒に住もうといってくれるんですが、愛着がありましてネ」といった。交通の便の悪い、築年数を経た、エレベータなしの分譲住宅は売れない。住む人のいない空き室の目立つ団地。そこに住むことを強いられた高齢(独居)者たち。これがひとつめの計算違いである。

0821_UR.jpg ふたつ目の挫折は、「住宅の輪廻」だった。つまり、公団は団地に若い夫婦が入居し、経年的に給料がアップ。団地を出て戸建て住宅に移り、空いた団地に別の若夫婦が入居するという流れを描いていた。しかし、成長した子どもたちは家を出て行くものの、夫婦はそのまま団地に住みつづけ高齢化した。やがて商店街はシャッター通りとなり、建物は老朽化し、街はゴースト化する。そして高齢者は孤立していく。
 せめて悲惨な孤独死から高齢者を守りたい、と立ち上がったのが、千葉県松戸市にある常盤平団地だった。でもこれは例外中の例外である。中沢卓実という傑出したカリスマを持てる団地は少ない。餓死者という実に恥ずかしい「異常死」に対しても、「二度とこのようなことがないように」という空しいコメントを発するのが、今の行政の関係窓口である。個人情報保護法という魔法の切り札が彼らの立場を守る。一方で、取り残された高齢住民は放置されたまま、「高齢者は地域の皆さんで支えましょう」という空しい声だけが空しく響く。

 ところがここに来て、「高齢住民を行政だけで見守ることは不可能」。「地域支えあい推進条例」を設け、高齢者の孤立化、孤独死からの早期発見のために、名前、年齢、性別、住所などを自治会や町内会に提供し、「地域の中で高齢者を見守っていただき、行政が支える」(「朝日新聞」12・5・30)と宣言した首長がいた。東京都中野区長田中大輔氏である。この全国初の大英断は、大きな波紋を呼んでいる。この条例には、特筆すべき「仕掛け」が用意されていた。目下取材中で、終了後に詳細を報告したい。

(つづく)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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