2024年03月29日( 金 )

どうなる新耐震基準、地域係数の見直し必要~熊本地震、損壊住宅1万棟(前)

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 熊本地震で損壊した住宅が1万棟を超えた。1度目に発生した震度7の地震で倒壊をまぬかれた建物も、連続した一連の地震で損壊・倒壊した結果だ。震度6強~震度7の地震を受けても倒壊しないとされる耐震基準のあり方や今回の被害をどう見るのか。構造設計一級建築士で、1万8,000件の構造設計を手掛けた仲盛昭二氏((株)九州構研取締役)に話を聞いた。

(聞き手・山本弘之)

構造スリット未施工が3割、柱などの構造部材の破壊に直結

 ――損壊した住宅が1万棟を超えました。現地を3日間に渡って調査してこられ、被害の状況から何が見えてきましたか。

仲盛昭二氏<

仲盛昭二氏

 仲盛 4月16日の本震の翌日の4月17日の夜に入って、火曜(4月19日)に帰ってきました。10棟ほど被害状況を調査しました。そのうち3割で、構造スリットが施工されていませんでした。先日も、三菱地所のマンションで、構造スリットを手抜きで施工していなかったことが表面化していました。構造スリットの未施工は、恐らく、天文学的数字に上ると思われます。これは、構造スリットを入れると、タイル割りが難しくなるので、建築現場で、最も手抜きが多い事例だと思います。構造スリットがないと、柱が、いわゆる短柱という形式になるなどでも、大きなせん断力が作用し、柱などの構造部材の破壊に直結します。このため、玄関ドアが開閉できない、最悪の場合、その階が崩壊して潰れるといった事態もあり得ます。実際に、阪神淡路大震災の被害写真で見受けられました。
 構造スリットについては、今は大きな問題として取り上げられていないようですが、早急に調査し、スリットを入れる工事を行うなどの対策を急ぐべきです。
 構造スリットの未施工は、今後、大きな問題となり、建築界を揺るがすことになりかねない重大事になると思います。

 ――倒壊した建物の特徴は?

 仲盛 熊本で倒壊した住宅の多くは、筋交いが不足していたり、基礎工事がいい加減であったりという事例が多いようです。マンションなどで、ピロティ階の崩壊がありました。通常は、構造上危ないのが分かっているからそれなりの設計をしていますが、今回熊本でもピロティ階が潰れる被害が起きました。福岡でも、旧耐震基準の建物で、1階がピロティという建物は数多く見受けられます。しかも、地域係数でいえば、福岡は0.8なので、単純に言えば、最初から構造耐力が20%少ないので、地域係数が0.9の熊本よりも危険性は高いと言えます。

体育館の揺れの特性…避難場所に適しているのか?

 ――地域係数については、後ほど詳しくお聞きします。耐震化工事を終えた熊本市内の小中学校体育館24カ所が安全を確保できないとして、収容していた避難者が別の避難所に移動する事態になりました。耐震化工事済みの建物でも注意すべきことは。

1階部分が潰れた熊本市内のマンション<

1階部分が潰れた熊本市内のマンション

 仲盛 体育館の屋根プレースが外れてボルトが落下したことがテレビで報じられています。体育館というのは、壁や軸プレースといった水平力を負担する部材が少なく、階高が高い分、柱の変位も大きい建築物です。下層がRC造、上層が鉄骨造という形式も多く、下層と上層の剛性の違いから、上層の鉄骨部分が大きく揺れることが考えられます。

 ――体育館というのは、構造の特徴から考えた場合、そもそも避難所に適しているのでしょうか。身を隠すテーブルや机もありません。物が落ちてきたら、避難者が密集しているだけに、ケガ人が多数出る惨事を招きます。もう一度震度6強が来た時に、物が落下したり、損壊する恐れはありませんか。

 仲盛 ご指摘のように、机などの身を隠す物がないという実態もあります。学校の校舎も体育館も、旧耐震基準の建物に耐震補強をしたものが圧倒的多数だと思います。震度7や6強の地震で倒壊を免れたとしても、建物が損傷を受けているので、避難場所として適切とは言い難いと思います。大人数が一箇所にまとまり、支援物資の配給を受け易いことや安否の確認が取りやすいなどというメリットはありますが、安全上は、避難場所として考え直すべきだと思います。

(つづく)
【山本 弘之】

 
(中)

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