2024年03月29日( 金 )

上限超え懲役刑判決、裁判所は「侵スベカラズ」なのか(前)

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「猛省し、再発防止に努める」と福岡地検

fukei2 福岡地検は4月26日、福岡地裁小倉支部が言い渡した刑事事件の判決で法の上限(処断刑の範囲)を2カ月超える懲役刑を宣告したことが分かったと発表した。違法な確定判決を是正するために、検事総長が最高裁判所へ非常上告の申立手続きをした。元受刑者は、1年2カ月の刑期を終えており、福岡地検は本人に事情を説明し、謝罪した。

 刑法で犯罪ごとに定められている法定刑に対し法律上の軽減や酌量など加重軽減が認められている範囲(処断刑の範囲)で刑が宣告されるが、福岡地検の発表によれば、処断刑の範囲(上限)が1年だったにもかかわらず、検察側が1年6月を求刑し、裁判官が2014年3月の判決で、上限を超えた1年2月の懲役刑を宣告した。元受刑者は、同4月~15年5月まで1年2カ月間懲役刑に服した。

 福岡地検の長谷透次席検事が記者会見し、「誠に申し訳なく、心から深くお詫びする」と謝罪し、原因として「検察官が法律上刑が必要的に減刑される場合であることの確認が不十分であった」ことを挙げて、「猛省し、今後はより厳密な確認作業を行い、同種事例の発生防止に努める」と述べた。

「事実を確認しているところでお答えできない」と裁判所

 福岡地裁はデータ・マックスの取材に対し、「事実関係を確認しているところなので、お答えできない」とコメントした。どの判決なのか特定する指示が出ているのか、検察に問い合わせをしたのか、どのように事実関係の確認しているのかなどの質問には、「お答えできない」という回答だった。

 福岡地検の発表が正しければ、今回、元受刑者は、裁判所の違法な判決によって、不当に2カ月間も自由を奪われたことになる。
 
 犯罪者だからといっても、恣意的に刑罰を科すことはできない。刑事罰という制度は、国家権力に国民の自由を奪い、場合によっては死刑によって生命まで奪うことを許しているが、日本は罪刑法定主義の国だ。憲法は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めている。国家権力が恣意的に国民に懲役や死刑などの罰を行えないための制度的保障であり、人身の自由の基本原則である。裁判所の違法判決によって、この基本的原則を犯した過ちは重大だ。

 福岡地検は、法律の上限を超えて求刑し刑を執行した誤りに気付き、みずから是正の手続きをとった。求刑と刑の執行の責任は検察側にあり、求刑したのは検察とはいえ、判決を言い渡したのは裁判官だ。裁判所にも真摯な反省と、原因究明、検証、再発防止策が求められる。「事実を確認している」と、他人事のようなコメントで済む問題ではない。刑罰を執行する効力を与えるのが確定判決であり、裁判所の責任は検察よりも重い。

(つづく)
【山本 弘之】

 
(後)

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