2024年04月24日( 水 )

トランプ指名で、今後のアメリカ大統領選挙はどうなるのか?(2)

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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

 巨額の金をかけた「反トランプ運動」もむなしく、「怒れる大衆」の熱狂的な支持を集めたことで早々と候補指名を確実にしたトランプの次の課題は、本戦でヒラリー・クリントン元国務長官を破ることだ。
 ただ問題は、怒れる貧乏白人層の間で人気を高めたトランプの核となる肝心の主張が、本選挙では彼の足をすくう可能性が高いのだ。

usa 貿易格差是正の反グローバリズムの政策はともかくとして、トランプの主張の柱である「不法移民排除(メキシコのカネで国境に移民を封じる壁を建設する)」と「イスラム教徒の入国禁止」は、人種差別的であるとして評判が悪いほか、女性蔑視発言(予備選の最中に、トランプは人工妊娠中絶をした女性を処罰するべきだと、最終的には撤回したものの発言した)も問題になっている。
 とくに問題なのは、アメリカの白人以外への層(黒人やヒスパニック)への受けが悪いことだ。比較的穏健派と言われた、元マサチューセッツ州知事のミット・ロムニーがオバマの再選を阻止しようとした前回2012年の選挙では、ヒスパニック系の票をロムニーは27%しか獲得できなかった。ヒスパニック系有権者、アジア系、従来のアフリカ系アメリカ人とマイノリティがアメリカの人種構成を塗り替えていくなかで、それに対する危機感からトランプが貧乏白人の票を集めていったわけだが、そのこと自体がトランプの支持の広がりを阻害する可能性が高いのだ。

 今後の注目は、共和党ではトランプがどの程度、予備選挙の最中はあれほど激しく罵ってきた共和党首脳部と和解できるか、ということと、それ以外には副大統領候補の人選である。

 まず、トランプ候補が共和党を団結させられるか、という問題だが、これは意外に上手く行っている。予備選挙を争ったジェブ・ブッシュをはじめとするブッシュ一族や、自分の携帯電話番号を遊説の最中に大衆の面前で読み上げられたリンゼー・グラハム上院議員などは、断固「反トランプ」を貫くだろう。しかし、それ以外は、共和党の重鎮は、下院議長のポール・ライアン(12年の副大統領候補)や一部の議員を除いては、仕方なしに「党の予備選挙を勝ち抜いた人物を支持する」として表向きの反発は抑えている。上院院内総務やトランプに散々からかわれたマケイン上院議員、ブッシュ政権の副大統領だったディック・チェイニーも、党の方針に従うという立場だ。
 大統領選挙では上院議員と下院議員選挙や知事選なども同時に実施されるので、党がトランプ支持をめぐり分裂すると、議席を減らすことになりかねない。したがって、ライアン議長も最終的にはトランプを受け入れざるを得ない。
 現在46歳のライアン議長は、同じくトランプ支持に回ったジョン・ベイナー前下院議長の後を継いで、10年の中間選挙以来台頭した草の根保守の「ティーパーティー運動」の懐柔を図りつつ、共和党下院議員団の拡大を図る役目を担っている。おそらく、トランプが落選することを見越して、2020年の大統領選挙を狙っているのだろう。

 副大統領候補だが、共和党では、早々とトランプ支援を表明した、元下院議長のニュート・ギングリッチや、ニュージャージー州のクリス・クリスティ(予備選に敗れトランプ支持に回った)やサラ・ペイリン元アラスカ州知事が有力と見られている。今回の副大統領候補は、言ってみれば「ババ抜きのババ」のようなもので、誰も引き受けたがらないのが正直なところ。何人かの名前の挙がった知事や上院議員らは、メディアにその意志はないと表明している。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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