2024年03月28日( 木 )

技術のない三菱を傘下にした日産の真意は?

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 仏の顔も三度までと言うが、三菱自動車工業(株)の不正も三度目だ。二度のリコール隠しと今回の燃費不正。いずれもユーザーにとって重大な裏切り行為である。しかも5月11日には最初に公表された軽自動車4車種から、対象が全車種に広がることがわかった。日産自動車(株)との資本業務提携に関する報道について、三菱は12日になり「当社が発表したものではない」とコメントを発表したが、協議していること自体は認めている。いずれにせよ、このまま三菱自動車に生き残る道はない。そのために協力を仰いだ相手が、かつて倒産寸前に追い込まれ、ルノー傘下に入ることで生き延びた日産というのは歴史の皮肉というべきだろう。

日産自動車(株)本社<

日産自動車(株)本社

 三菱が11日に発表した資料によると、14型「ekワゴン」と「デイズ」(日産にOEM供給)の燃費訴求車の開発で走行抵抗の不正な操作が始まった。走行抵抗とは空気抵抗とタイヤの転がり抵抗のことであり、いずれも燃費性能に大きく関わる。走行抵抗のデータは「惰行法」により実測することが法律で決まっている。惰行法とはトランスミッションをニュートラルにした状態である特定の距離を惰行しながら走らせ、減速にかかった時間から走行抵抗を計算する方法だ。日本では1991年から実施されている。

 しかし、三菱は惰行法ではなく、北米で採用されている「高速惰行法」で計測していたことが明らかとなっている。これは惰行法よりも高い速度で測定が実施されるもので、実際の違いについては差がないとは言われているが、日産が対象車種を惰行法で測定したところ、7%の違いがあったという。デイズのカタログ燃費はJC08モードで29.2キロ/リットル。7%悪かったとすれば単純計算で約27.2キロ/リットルになる。

 三菱は燃費訴求車の開発で、燃費目標を26.4キロ/リットルから29.2リットル/リットルまで計5回引き上げている。その根底には燃費が「商品性の一番の訴求ポイント」という認識があった。ユーザーにとって、自動車の性能を図る最も重要なポイントが燃費であることは間違いない。特に軽乗用車は排気量が小さく、車重も軽いので、燃費も良くなる寸法だ。

 実際、軽乗用車というカテゴリーは日本独自のもので、海外には存在しない。税金が安いため、海外メーカーからは日本市場進出の妨げになるとして、常に批判の矢面に立たされていた。しかし、近年になってトヨタ自動車(株)や日産が軽乗用車市場に参入するなど、乗用車市場が頭打ちになっているなかでは、依然として高い潜在力があると期待されている。いわば、現在は軽乗用車戦国時代だ。

 一方、軽乗用車の燃費性能はすでに限界に達しているとの見方がある。エンジン単体で燃費を上げる方法として燃焼効率の改善があるが、あまりに効率を上げるとノッキングが発生して車体を振動させてしまう。また燃費に最も影響を与えるのが空気抵抗であり、速度の自乗×前面投影面積×空気抵抗係数で表される。ざっくり言えば、時速10キロと100キロでは、空気抵抗が100倍違う。これはどうしようもないから、最も簡単な方法として前面投影面積を減らす。しかし、近年は乗り心地や荷物の積載性などを重視し、ゆったりとした形を好むユーザーも増えている。そうなると前面投影面積は拡大し、空気抵抗は悪化してしまう。メーカーにとってはジレンマだ。スズキは余剰駆動力で発電するエネチャージ、ホンダがダウンサイジングターボで出力を補う車種を販売しているが、コスト増につながったりと広くユーザーに浸透していないのが現状である。しかも三菱はこうした技術を持っていない。じり貧に追い込まれたのは必然だったといえよう。

 三菱は不正に関与したのが開発関連部門であったとしている。複数の管理職が業務委託先と十分にコミュニケーションしていなかったうえ、高い燃費目標の達成が困難であると分かっていたのに実務状況を把握していなかったことに問題があった。恐らくその通りだろう。しかし、それは今回の事件の一面に過ぎないのではないか。不正自体は1991年から行われていたことがわかっている。25年間も開発関連部門のなかだけで話が完結していたと考えるほうが不自然だ。

 相川哲郎社長は1978年東京大工学部を卒業後、三菱に入社。技術者として開発部門におり、「ekワゴン」の開発を担当したという。新車開発に際してまず設定されるのが燃費目標であり、担当者がその数値を知らないことはありえない。高速惰行法が社内の慣行であったとしても、日本の法律で決まっているのは惰行法だ。技術者だから法律を知らなかったという言い訳は通用しない。技術者とはルールを把握し、そのなかで開発を進めていくのが仕事だからだ。相川社長は知らなかったのではなく、それが不正であると認識していなかったのではないか。もし知っていたとしたら悪質だ。相川社長の父、賢太郎氏は三菱グループの重鎮なのだから、言わずもがなだろう。

 日産がなぜ三菱を傘下に収めようとしているのか理解に苦しむ。普通ならその会社の技術力を取り込むのが理由だが、三菱にそれがないことは今回の不正で明らかとなった。うがった見方をすれば、燃費不正の後処理をしやすくするためにいったん内側に取り込んだのではないか。コストカッターと呼ばれるカルロス・ゴーン社長だが、実は意外に大胆なカネの使い方をしてみせることも多い。事態が収束しても日産は三菱を守ろうとするだろうか。

【平古場 豪】

 

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