2024年04月19日( 金 )

ハイネケンはF1を救うか グローバルスポンサー契約の行方(後)

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 アルコール飲料メーカーがF1のスポンサーにしり込みするのは飲酒運転を助長するとの批判を恐れるからだ。とくにパワーユニットを供給しているのはメルセデス、フェラーリ、ルノー、ホンダと世界的な自動車メーカーばかりで、これらは企業イメージとして車とアルコールが結びつくのを嫌う。近年、F1で勢力を拡大しているのは同じ飲料でもエナジードリンクだ。なかでもレッドブルの躍進はすさまじい。2つのチームを所有し、数年前には地元オーストリアのサーキットを買収してオーストリアGPを開催している。

sake 一方、F1は年々跳ね上がっていくコストに苦しめられている。ビッグチームのマクラーレンでさえメインスポンサーを見つけられない有様だ。しかも肝心のレースをグランプリ主催者が開催できないという事態まで起こっている。その最大の原因は高騰する開催権料だ。FOM代表で、F1界のボスと呼ばれるバーニー・エクレストンはこの20年近く、F1のテレビ放映を強化する動きを進めてきた。そこでF1の価値を吊り上げ、開催権料の値上げを続けてきたのである。しかしテレビでF1を見る人が増えれば、必然的にサーキットを訪れる人は減る。開催権料の大半はサーキット入場料で賄われるため、収入が減少すれば即座にレースは立ちいかなくなってしまう。

 裏を返せば、F1開催の条件であるグレード1を取得したサーキットがカネさえ出せば、簡単にF1を開催できるということでもある。今年グランプリが開催する国でもバーレーン、中国、ロシア、アゼルバイジャン、シンガポール、アメリカ、メキシコ、アブダビはこのやり方でF1を招致した。イタリア、イギリス、ドイツ、オーストラリアなど”オールド”と呼ばれる国々はほとんどが自治体から財政支援を受けている。近年は税収減などから財政支出を取りやめ、あるいは縮小する自治体も増えており、こうした国でのF1開催が危ぶまれるようになった。イタリアGPのタイトルスポンサーにハイネケンがついたのも、こうした事情からくる財政難で開催中止寸前にまで追い込まれていたためである。

 実際、今回のハイネケンの決定には驚かされる。かつてたばこ会社が一大勢力を築いた時代でも、一つの会社がF1全体のスポンサーになるということはあり得なかった。ハイネケンのためにおぜん立てをしたのがエクレストンであることは疑いない。契約料がどれだけかはわからないが、おそらく1000億円単位にはなるだろう。それだけの額を引き出し、少なくとも2020年まではF1の運営を安定させたエクレストンの手腕は瞠目に値する。しかしエクレストンは現在85歳であり、いくら壮健であるとはいっても、年齢的な限界が近づいている。
 F1界では20年以上にわたってエクレストンの後継者探しを続けているが、まだ有力候補は確定していない。そこにハイネケンがグローバルスポンサーとして手を挙げた。同社シニアディレクターグのジャンルカ・ディ・トンドは20年以降の長期契約も示唆しており、さらなる勢力拡大を狙っているものとみられる。しかしF1界には“ピラニア・クラブ”が存在する。貪欲なチーム代表らはカネに群がり、骨までしゃぶりつくす。これまで多くの世界的な企業がF1に参入して“ピラニア・クラブ”の餌食になり、見るも無残な形で捨てられてきた。次代のF1を担うのか。それとも無残な姿をさらすのか。ハイネケンから目が離せない。

(了)
【平古場 豪】

 
(前)

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