2024年03月29日( 金 )

インフレ誘導失敗したから実質賃金プラス転換

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、アベノミクスの主要目標であったインフレ誘導が完全に失敗に終わり、その結果として実質賃金伸び率がプラスに転じていると論じた、6月26日付の記事を紹介する。


 経済全体のパフォーマンスを示す経済指標をただひとつ挙げるとすれば、実質GDP成長率ということになる。このGDP成長率において、安倍政権の実績は悲惨なものである。

 2012年10-12月期から2016年1-3月期までの実質GDP成長率の平均値は+0.7%。2009年10-12月期から2012年7-9月期までの実質GDP成長率の平均値は+2.0%。
 民主党政権時の日本経済は決して好調でなかった。東日本大震災もこの時期に発生している。この好調でない日本経済と比較して、安倍政権下の経済成長率はその3分の1に留まっている。

 いくら安倍首相が口角泡を飛ばして「アベノミクスで日本経済は良くなった」と言い張っても、実績を示すデータがアベノミクスの失敗を明確に物語っている。労働者の実質賃金も3年連続で減少し続けている。
 このことに関連して安倍首相がおかしな主張をしている。テレビなどでも懸命に主張していることだが、間違いだから周りにいる者が注意してやめさせるべきだ。それは、労働者一人当たりの実質賃金が消費税増税の影響を超えてプラスになったという点である。

 NHKは日曜討論で、偏向した統計数値を用いる。日本の労働者の一人当たり実質賃金が、2016年になって、ようやくプラスに浮上したことを示すグラフである。たしかに、実質賃金指数が2016年に入ってからプラス数値を示している。
 実質賃金指数の前年比伸び率は、2013年度-1.3%、2014年度-3.0%、2015年度-0.1%であり、本年1月以降は2016年1月0.0%、2016年2月+0.3%、2016年3月+1.6%、2016年4月+0.4%である。
 今年に入って、数値がプラス基調に転じている。しかし、この変化をもたらしているのは、インフレからデフレへの転換である。インフレ率がマイナスに転じて、実質賃金の伸び率がプラスに回帰し始めているのだ。

 安倍政権は「アベノミクス」の主要目標にインフレ誘導を掲げた。日銀幹部を総入れ替えして、2年間でインフレ率を2%まで引き上げることを公約に掲げた。日銀の岩田規久男副総裁は、2年後にインフレ率2%の公約を実現できない場合には、職を辞して責任を明らかにすることを国会答弁で明言した。
 しかし、インフレ誘導は失敗した。日銀は常軌を逸する金融緩和を実施しているが、インフレ誘導は失敗し、円高推移も止められないでいる。

 アベノミクスの主要目標であったインフレ誘導は完全に失敗に終わっている。このインフレ誘導失敗によって、実質賃金伸び率がプラスに転じているのである。インフレ誘導を主張し、これに失敗した安倍政権が、インフレ誘導失敗の結果として生じている実質賃金のプラス転換を自画自賛するのはおかしいだろう。

 「インフレ誘導」は「百害あって一利なし」の政策だと、私は一貫して主張してきた。「インフレ誘導」を喜ぶのは、実質賃金を切り下げることができる企業の側で、労働者にとっては「百害あって一利なし」だと主張してきた。「インフレ誘導」に失敗し、日本経済が元の「デフレ」に回帰したから実質賃金がプラス転換しているだけなのだ。

 安倍政権が実質賃金のプラス転換を自画自賛するのは完全な筋違いだ。その前に、「インフレ誘導」というアベノミクス政策が誤りだったことを認めるべきである。

 NHK日曜討論で自民党の稲田朋美政調会長は、民主党時代の実質経済成長率が高かったのはインフレ率がマイナスだったからだと主張して、民主党時代の経済パフォーマンスを批判したが、その稲田氏が、インフレ率がマイナスに転じたことで実質賃金伸び率がプラスに転じた現状を自画自賛するのは、完全な論理矛盾である。

さらに安倍首相は、消費税率を3%引き上げたあとで、実質賃金伸び率がプラスになったことについて、「消費税増税後に実質賃金がプラスになるのは大変なこと」だと自画自賛しているが、これは、初歩の算数における致命的な誤りに基づく発言であるので、これも周囲の者がやめさせるべきものだ。

 安倍首相は一次方程式も解けないと揶揄されているが、簡単な算数もできないと疑われている。初歩の算数を学び直した方がいい。

※続きは6月26日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1471号「安倍首相の実質賃金虚偽説明野放し問題」で。


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・植草一秀の『知られざる真実』

 

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