2024年04月18日( 木 )

2分割的発想は思考の退化、人間の幼児化!(1)

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青山学院大学 特別招聘教授 榊原 英資 氏

 日本社会の屋台骨が今さまざまな局面で、次第にしかも加速度的に崩れている。指導層の質が低下し、明らかに視野が狭くなり小粒になった。それは政治家も企業経営者も、ものごとを多面的に見ることができなくなり、幼児化したことを意味する。話題の書『幼児化する日本社会』(2007年7月、東洋経済新報社)に続き、近刊『幼児化する日本は内側から壊れる』(16年4月、同社)を著された元財務官・青山学院大学特別招聘教授の榊原英資氏に聞いた。

(取材日:7月12日)

携帯やスマホの普及で、多面的に考える脳が退化

 ――本日は「幼児化する日本」に関して、いろいろとお聞きしたいと思っています。その前に、まずは近々の政治・経済を俯瞰していただけますか。

青山学院大学 榊原 英資 特別招聘教授<

青山学院大学 榊原 英資 特別招聘教授

 榊原英資氏(以下、榊原) 近々の大きな出来事と言えば、英国のEU離脱(Brexit)があります。私は、離脱すべきでないと考えていました。レファレンダム(国民投票)という制度が大きな不安定要因になって、あのような結果を招いたと言えます。EU離脱の最大の理由は、難民・移民問題と言われています。英国民の多くがこの難民・移民問題で悩んでいます。しかし、キャメロン首相も言われていたように、識者の目から見れば、その問題とEU離脱によって生じる経済的な損失を一緒に考える必要がありました。そこを配慮することなく、一時の感情に流されて判断してはいけないわけです。

 もともと国民投票というのは、そのように感情に流される側面を持っています。離脱を選択した人も後で後悔しているという話も聞きます。英国は代議制民主主義をとっています。選ばれた議員である専門家に判断を任すのが代議制です。とくに今回のような政治・経済的に高度な問題については、国民投票で決めるのは相応しくなかったとも言えます。

 ――先生は近刊で『幼児化する日本は内側から壊れる』をお書きになり、2007年には『幼児化する日本社会』を出版されました。日本社会の幼児化はかなり進んでいるとお考えですか。

 榊原 2007年に『幼児化する日本社会』を書いてから、約10年が経過しました。この10年間にインターネットは一層普及し、SNSなどの通信手段も加速度的に増えました。今では、電車などに乗ると大人から子どもまで、ほとんどの人が携帯やスマホを操作、画面を見つめ、ゲームやSNS通信などをしています。この場合、いわゆる「ゲーム脳」とか瞬時に反応する脳は進化しますが、じっくり考えるとか、多面的に考える脳は、進化しないばかりか、むしろ退化させてしまうきらいがあります。

 とても皮肉なことですが、この10年でさまざまな通信手段が発達することによって、かえって本質的なコミュニケーション能力はより一層衰えてしまったことになります。とくに“Face to Face”形式のコミュニケーションは、どんどん少なくなっています。また、スマホなどにおけるコミュニケーションの相手は、通常親しい人だけに限られます。そのため、コミュニケーションの輪も広がっていきません。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
sakakibara_pr榊原 英資(さかきばら・えいすけ)
青山学院大学特別招聘教授。(財)インド経済研究所理事長。1941年生まれ。東京大学経済学部卒業。大蔵省入省後、ミシガン大学で経済学博士号取得。IMFエコノミスト、ハーバード大学客員准教授を経て、大蔵省国際金融局長、財務官を歴任。2010年より現職。著書として『幼児化する日本社会』、『強い円は日本の国益』、『幼児化する日本は内側から壊れる』(東洋経済新報社)、『財務省』(新潮新書)など著書・論文多数。

 
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