2024年04月26日( 金 )

混沌とする豊洲新市場問題、焦点は建設が進められた過程(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

東京都は伏魔殿か、食い違う知事と市場長

築地市場<

築地市場

 なぜ、いつ、誰が、専門家会議の提言から逸脱して盛り土をしないと決めたのか、なぜやったという虚偽報告をしてきたのか。その犯人捜しも始まった。真っ先に槍玉に上がったのが、移転を進めた当時都知事だった石原氏だ。2008年5月の定例会見で地下空間を作る方法もあると言及していたからだ。

 だが、最近のマスコミの囲み取材などで石原氏は、「俺は都の役人から聞いた話を言っただけ。実際には市場長でしょう。それ以降はいっさい報告を受けていない。東京都は伏魔殿だね」などとコメントしていた。

 これに真っ向から反論したのが、当時市場長だった比留間英人氏だ。「私は石原氏から話をされた。地下空間は採用できないという話をブリーフィングしたのも私」と見解の食い違いを明らかにした。これに石原氏が再反論。「ある専門委員から聞いて、私が逆に比留間氏に言ったが、その後は何も報告を受けないまま今のかたちになった」といい、「役人にだまされた」とまで発言する始末。結局、経緯は藪のなかだが、「犯人捜しの前にまずは豊洲が安全に使えるようにしてほしい」という関係者の声もあり、混沌とした状況に陥っている。

 共産党都議団の調べでは、08年11月の第6回技術会議で、5つの土壌汚染対策案の1つとして地下空間活用の提案が初めて紹介されたという。同月の第7回技術会議では、委員から「地下空間を駐車場として利用すれば安くなるのではないか」との提起を受け、都が採算性を検討。翌12月の第8回で都から詳細な報告がされたが、地下空間利用案については公表された議事録を見る限り、これ以降も議論されていないという。

 そんななか、実は土壌汚染が再び見つかった場合に備え、パワーショベルが作業できる場所とする目的でつくられていたという報道も出てきた。事実とすれば、当初は「配管のため」などとしていた中央卸売市場の説明とは食い違っており、またしても迷宮だ。

不透明な建設費増加、背景には官製談合とも

 もう1つ、大きな問題が横たわっている。それがゼネコンの落札率が99%以上だったということだ【図2】。

hy2

 施設の耐荷重不足や使い勝手の問題について、延期になる前の段階から指摘されていた。たとえば、水産卸売場、仲卸売場で活魚を扱う際に、床の耐荷重不足で荷の重量が制約を受けざるを得ない事態になる、売場が狭い、場内物流上の駐車場不足といったことだ。

 設計は、大手設計会社の日建設計が担っている。基本計画では、場内搬送計画は現在の築地市場でのターレなどによる物流方式を変更し、自動搬送装置を使うとされていた。だが、基本設計の際に自動搬送装置がなくなり、ターレなどで搬送することになった。場内での荷の量、置き場所、搬送方式についてどのような検討がなされ、発注仕様が決められたのかを明らかにすべきというのが、共産党都議団の主張だ。

 この問題から、そもそも高騰した土壌汚染対策工事費および施設建設工事契約豊洲新市場の整備費は当初予定の4,316億円から5,884億円に上昇する見込みだが、その理由はなぜかという疑問が浮かんできた。なかでも土壌汚染対策費が586億円から858億円、建設費が990億円から2,747億円に高騰しているのだ。

 11年7月に土壌汚染対策工事契約がされたが、当時から共産党は談合疑惑を指摘していた。都は入札参加業者から通りいっぺんの事情聴取をしただけで済ませ、詳しい内容も公表されなかったという。そこに輪をかけて、各売場棟の建設工事が予定価格の99%以上で落札された。1回目の入札は13年11月。これは不調となり、再入札公告は1カ月後に発表された。このとき予定価格は407億円増加し、1,035億円になったという。入札不調になった理由は、鹿島や大成建設、清水建設らが独自に積算した金額よりも安く、採算が合わなかったためとされる。その後、都が入札予定の大手ゼネコン側にヒアリングを行い、積算を事実上聞いていたという報道もある。

【図3】豊洲新市場問題をややこしくする3つの対立 【図3】豊洲新市場問題をややこしくする3つの対立

 一口に談合といっても、民間の複数社が共謀し落札する1社を決め、安値受注を避けて最大利益を得るパターンは減っている。一方で、東日本大震災以降、建築費高騰や公共工事増加による人手不足で起こる入札不調が全国的な問題となり、それがきっかけで官製談合が起こるのが最近の傾向だ。
 ひとたび入札不調になれば、設計見直しや再入札手続きなど、行政側の現場担当者の負担が大きくなる。不調を回避したい焦りが誘発材料となるからだ。今回のケースがそれに当てはまるかは不明。今後の検証次第だが、いずれにせよ平均落札率は99%以上で各工事の入札はそれぞれ1グループしかいない。共産党都議団は「談合の疑いがある」と指摘する。

 かつて新国立競技場の建設をめぐって迷走したのとどこか構図が似通っているが、ステークホルダーが多い分、豊洲新市場の方が問題はより複雑だと言えるだろう【図3】。それもこれも、情報が適切に公開されていないのもさることながら、縦割りで誰が何をどうしたのか、さっぱりわからない都の組織上の問題が大きい。
 小池知事はそこにメスを入れた。この手術が成功するのかどうか、過熱気味の報道に対し、どう冷静に科学的に分析するのか、その手腕が問われる。

(了)
【大根田 康介】

 
(中)

関連記事