2024年04月25日( 木 )

創業家の乱!昭和シェルとの合併を延期させた出光創業家の面々(前)

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 石油元売り大手の出光興産(株)と昭和シェル石油(株)は10月13日、2017年4月に予定していた合併を延期すると正式に発表した。出光株の33.92%を持つ創業家が合併に反対しており、臨時株主総会の承認が得られないと判断した。合併する方針は両社とも変わらないとしているが、合併は白紙還元される公算が高まった。

出光創業家は四面楚歌

kabuka 10月13日の東京株式市場。出光興産と昭和シェル石油の株価大きく値下がりした。出光株は一時、前日終値比145円(6.3%)安の2,165円まで下げ、昭和シェル株も一時、同52円(5.3%)安の938円まで売られた。後場に、両社が来年4月に予定していた合併を延期すると伝わり、投資家による失望売りが膨らんだ。株式市場は、合併反対を貫く出光創業家に“ノー”を突き付けた格好だ。

 出光創業家の出光昭介氏は今年6月に開かれた同社の定時株主総会で合併反対を表明。7月には経営陣と話し合う場を持ったが、平行線のまま終了し、膠着状態が続いている。
 危機感を募らせた出光の系列給油所を運営する815社でつくる「全国出光会」は、9月26日に開いた臨時理事会で、合併推進に賛成を決議した。加盟販売店が恩義のある創業家へ反対の立場を取った。極めて異例なことだ。

創業家のお家再興の情念

 出光創業家は“四面楚歌”の状態だ。意気軒昂だ。経営陣や全国出光会の代表とも会うつもりない。昭和シェルとの合併を白紙還元させるまで、鉾を収める気はさらさらなさそうなのだ。

 なぜ、これほどまでに強硬な姿勢を崩さないのか――。反対の理由に、出光と昭和シェルとの企業文化の違いや、サウジアラビア対イランのイスラム世界の対立を挙げている。

 出光昭介氏を突き動かしているのは、「お家再興」の情念ではないのか。
 2000年は、出光創業家直系の昭介氏が失脚した年である。出光興産は有利子負債1兆7,000億円を抱え、倒産の危機に瀕した。再建をめぐり、一族は分裂。7代目社長の出光昭氏は、生き残りを賭け株式上場を決断した。

 昭氏は創業者である出光佐三氏の実弟で、2代目社長・出光計助氏の次男。昭氏は出光家の最後の“切り札”と言われたが、分家なので出光興産の株を1株も持たない。出光興産の株の4割近くを支配する佐三氏の長男で、会長の昭介氏は株式公開に猛反対した。

 上場推進派は社長の昭氏と専務の天坊昭彦氏。彼らを銀行団と多くの販売店が支援した。昭介氏は会長を辞任。昭氏が会長に就き、非同族の天坊昭彦氏が社長に昇格した。出光興産は06年10月に東証一部に上場。同族色が薄まったことを見届けた昭氏は、経営から手を引いた。これで出光興産には、出光家の役員を1人もいなくなった。

 昭氏は、創業家の直系の筆頭株主でありながら、神棚に祭り上げられて、経営にタッチすることはなかった。昭和シェルと合併すれば、創業家の影響力はさらに薄れる。次の代には、出光創業家は、一株主になることもあり得る。そんな事態は避けねばならない。お家を再興して、出光創業家の影響力を末代まで残さねばならない。その情念に駆り立てられたようだ。

(つづく)
【森村 和男】

 
(後)

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