2024年04月24日( 水 )

殺人マンション鹿島建設(前)

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 福岡県久留米市の分譲マンション、新生マンション花畑西の構造・施工の欠陥を巡り裁判が続いている。このマンションでは、設計における構造計算の偽装、不適切な設計が行われていたが、これらの問題点が久留米市による建築確認において見逃され、是正されることなく、マンションが建設された。さらに、施工を請け負った鹿島建設は、ずさんな施工を行い、「図面に明記された梁を30箇所も施工していない」「鉄筋のかぶり厚さが確保されておらず、かぶり厚さがゼロの箇所もある」「コンクリート内部に異物を混入している」など、数々の瑕疵が判明している。鹿島建設は、区分所有者に対して不誠実な対応を貫く一方、驚くことに、下請業者に対しては、施工の不具合を理由として損害賠償を請求していたのである。
 原告区分所有者からマンションの構造検証を依頼され、以後、原告に対する技術支援を続けている、協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛昭二氏、及び、理事の星野信治氏に、この事件の構造に関する問題点を聞いた。

 ――まず、事件の概要をお聞かせください。

 福岡県久留米市の新生マンション花畑西は、平成8年1月に竣工した鉄骨鉄筋コンクリート造15階建ての分譲マンション(92戸)です。木村建築研究所外1社により設計され、久留米市により建築確認済証が交付され、鹿島建設により施工された建物です。なお、実際の施工は、地場の栗木工務店が行いました。
 竣工直後から外壁の剝落などの不具合が生じ、管理組合側と施工業者鹿島建設との話し合い、また、管理組合側と久留米市との協議も行われていましたが解決に至らず、平成26年6月、区分所有者側が建替えを求めて提訴{福岡地裁久留米支部平成26年(ワ)第196号、331号損害賠償請求事件}に至りました。
 また、仲盛・星野による構造検証の結果、構造計算の著しい偽装が判明し、本件マンションの耐震強度が、国の除却規準である「50%」を大きく下回る「35%」(提訴時。その後の調査で現況は8%以下と判明)である事から、平成27年3月、行政庁である久留米市に対して、除却命令を求める訴訟{福岡地裁平成27年(行ウ)第9号建築物建替義務付請求事件}が提訴されました。その後、平成28年1月には、行政による建築確認業務に大きな過失があったとして、久留米市に対して損害賠償請求が提訴されました。本件マンションにおける極度の耐震強度不足は、建築確認を行った行政庁である久留米市や、施工業者である鹿島建設、設計者である木村建築研究所らの瑕疵が複合的に重なった、非常に珍しいケースであり、三者は、現在(平成28年10月19日)も、相互に責任転嫁をするという見苦しい状況を続けています。

 ――このマンションの設計における問題点をお聞かせください。

 本件マンションの構造設計においては、下記の点が明確な法令規準違反です。

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 このマンションの設計は木村建築研究所とU&A設計(廃業)らが担当しました。構造設計において偽装や不適切な設定がいくつも重なり安全を確認できない危険な状態の建物が設計されました。私たちの検証の結果、耐震強度が35%であることが判明しました。しかし、建築確認当時の構造計算書においては、耐震強度が100%以上であるかのような偽装が行われていたのです。

 具体的には、まず、構造計算の際に、地震力を小さく算定し構造部材の断面や配筋を少なくする(コストを抑える)目的で、地震力算定の基となる地盤種別を地震力が小さくなるよう第1種地盤を選択していました。第1種地盤は、堅固で良好な地盤であることが工学的に立証できなければ採用することができません。しかし、このマンションの設計図書には、地盤調査結果(ボーリングデータや液状化判定など)が、一切、添付されていません。つまり、第1種地盤と判定する根拠が存在しないのです。

 図面には杭先端の深さが地表から42mと表記されているので42mの深さまで杭が施工されたものと思われますが、地盤調査を行っていないのに杭先端の深さを図面に記入したのは、恐らく近隣の地盤資料を参考にしたものと思われますが、支持地盤の深さが近隣の敷地と全く同じであるとは限りません。そのため、建設地における地盤調査は必要不可欠なのです。

 このマンションでは、最悪の場合、杭が支持地盤に到達していない可能性もあります。実際は、横浜の傾斜マンションの事例のように、沈下しているかも知れません。横浜のマンションのように隣の棟とのエキスパンジョイントがずれていれば判別しやすいのですが、1棟だけのマンションでは、沈下は調査しなければ判別が難しいものです。

 また、地表から42mもの深さに支持地盤があるのであれば、第1種地盤を採用できる地盤ではありません。間違いなく第2種地盤(軟弱地盤)です。この地盤種別の偽装により、本来の地震力の7割程度の地震力で構造計算が行われ、部材断面や配筋が決定されているため、本来の地震力で計算した場合、構造耐力が大幅に不足する状態となっているのです。建設地の地盤調査資料が添付されていないにもかかわらず、建築確認済証を交付した久留米市も、設計者と同等の責任があります。

 その他、柱と梁の平面配置が大きくずれていて15cmしか掛かっていません。内部の鉄骨に至っては適切な接合すら行われていない箇所があります。1階柱脚においても、構造図と構造計算で不整合(図面は柱脚ピン、計算は柱脚固定)があり、規準で必要とされている鉄量(鉄骨・鉄筋・アンカーボルト断面積の合計)の半分以下(48%)となっています。

 このマンションの工事監理者は木村建築研究所(代表木村忠徳氏)と、建築確認申請書、工事請負契約書、販売パンフレットに明記されていますが、木村氏は、「一部の図面を作製したが設計はしていない。工事監理者の欄には誰かが無断で記名押印した」と一級建築士と思えない無責任な主張をしています。その反面、久留米市から設計図面の提出を求められた木村氏は、自らが保管していた設計図面を久留米市に提出しているのです。設計にほとんど関与せず工事監理者でもないのであれば、設計図面一式を保管していることの方が不自然です。木村氏が設計図面一式を保管していたという事実は、木村建築が実際に設計及び工事監理を行っていたことを証明しています。このように、木村氏が設計者であるという客観的な事実がありながら、原告区分所有者の怒りを買うような主張を続けています。裁判所での証人尋問の場においても、木村氏は、同様の発言を繰り返し、裁判官からも失笑を買い、多くの傍聴人の前で恥をかいて、最終的に退席させられました。

(つづく)

 
(中)

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