2024年04月20日( 土 )

もはやアメリカに学ぶものはない?小売業最先端アメリカの実像(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

顧客は飽き続ける 挑戦と変化に躊躇すれば生存できない

 もはやアメリカの小売業に学ぶべきことはないという声がある。過去隆盛を極めた企業の低迷や倒産、物流、物量、消費形態の違いなどを挙げてのことだとは思うが、それは明らかに間違っている。かの地の小売業の競争は極めて厳しい、その証拠に学ぶことがないというものの、わが国の小売業にアメリカで大きく成功している企業はない。

 その大きな理由は独創性とその徹底度、極めて厳しい価格競争にある。いくら型を後追いしてもその厳しさの実態にはたどり着けない。アメリカの小売業は常に我が国の10年先を行っているというのは時系列でアメリカ小売業を見ていくと実感として理解できる。成功に安住すればたちまち新たな試みを武器にする競争相手に追い付かれる。それがアメリカ小売業の現実である。だから小売りの主役が次々と変わっていく。本当に学ぶべきはこの部分にある。そんな意味ではアメリカに学ぶことは尽きないといっても過言ではない。

ディケイド(10年期)・スコア・ジェネレーションという英語表現が意味するもの

 戦後から高度成長に掛けて、わが国の小売業が大挙して訪問したアメリカのチェーン小売業がある。
スーパーマーケットの「アルバート&ソンズ」、ディスカウントの「Kマート」、ゼネラルマーチャンダイズストアの「シアーズ」の3社である。

 日本の小売業は大部隊でこれらの店舗を訪れ、店舗立地や物流システム、店内作業などを学んだ。しかし、それを完全コピーしての成功は手にできなかった。その理由は、日本とアメリカの社会環境は生産、供給、消費の形などで大きく違ったからだ。

 この3社は人口増と市場規模の拡大を利用して、同一型の店舗を大量出店して高効率と大量販売による莫大な売り上げを手にした。しかし、シアーズがあるからアメリカがあるとまで言われた同社はその後、消費の変化に対応できずに店舗や商品の陳腐化で合併や倒産の嵐にさらされる。もちろん、ファンドや異業態による買収でその名前だけは今でも残っているが、それはもはや以前の企業ではない。Kマートとシアーズは今もシアーズホールディングとして存続しているものの、赤字続きでそう遠くない時期の再倒産がささやかれている。その従業員は27万人。現代では規模の大きさは企業の強さとは無関係である。もちろん今、彼らを見学に訪れる日本小売業は皆無である。

 シアーズに限らず、アメリカ小売業界では同様の事例は枚挙にいとまがない。前出の3社だけでなく、同じように我々が学んだ総店舗数5,000店を超えていた家電販売大手2位のレディオシャックは2度目の倒産、3位だったサーキットシティーもその姿を消している。そしていま、シアーズ、Kマート、アルバート&ソンズを凌駕し、競争を勝ち抜いて新しく顧客の支持を得た多くの企業にもさらなる変革の波が押し寄せる。

 アパレルの雄ギャップ、アバクロ。ブランドのラルフ・ローレン、デパートのメイシーズやJCペニー。金融コングロマリットのクレディスイスの予想では全米で近いうちに閉鎖がささやかれる店舗数は8,000店を超えるという。つい先日も世界中に4,400店舗を持ちながら経営破たんした靴チェーンのペイレス・シューソースなどの状況を見ればそれもあながち大げさとはいえない。

 もちろん、我が国の小売業がかつてアメリカに学んだことが無駄だったということではない。イオンなどはモール形式のスタイルを確立したし、ニトリや良品計画、アルペン、家電量販店のような新たな小売形態も多数生まれたのはひとえに彼に学んだ結果である。しかし、ユニクロもニトリも良品計画もアメリカ進出は実行しているもののその影は薄い。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 

(2)

関連記事