2024年04月20日( 土 )

もはやアメリカに学ぶものはない?小売業最先端アメリカの実像(2)

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ミレニアル世代というニューウェーブ

 アメリカ小売業界で、現在、2つの異変が起こっている。1つは食品デフレである。我が国ではこの4半世紀、物価がほとんど上がっていない。当然、既存店舗の売り上げも不変か低下という現象が続いている。アメリカのスーパーマーケットが毎年、数%の既存店売り上げを手にしているのを半ば驚異として受け止めてきた。この違いの原因はインフレとデフレの差にある。その違いは日米の食品価格を比較すればよくわかる。

 以前はアメリカの食品価格は日本に比べると安いイメージが強かったが、現在、生鮮を中心にその価格は実感として日本よりかなり高い。ところがここにきてアメリカの食品価格にデフレの影が忍び寄っている。

 アメリカ農務省経済調査局の調査によるとスーパーマーケットの商品物価は昨年比1.35%低下しているという。その理由がオーバーストアによる競争激化のせいなのか、経済的な理由にあるのかは定かでないが、ごく一部の企業を除いて、既存店舗の前年対比の売り上げが軒並み低下を始めているのだ。ここ50年以上、リーマンショックの翌年というごく一時期を除いてアメリカ小売業がデフレ状況に見舞われたことはない。しかし、ここに来て、コストコやホールフーズといった優良企業の既存店実績も従来の数値を下回る結果に見舞われている。

 その結果、既存店舗の売り上げ不振を打開しようとスーパー各社はイチゴ1パック100円、バナナ1本10円などと価格訴求に力を入れはじめている。しかし、これは単価の低下を呼び、デフレ感をさらに増幅しかねない。

 もう1つは出店の停滞である。停滞というより、意図した戦略転換といった方がいい。大量の店をつくり、より多くの商品を調達することで原価や物流コストを下げ、より強い価格競争力を手にするという従来の戦略からの転換である。

 転換の理由はオンラインショッピングにある。従来の店舗を訪れて店頭でモノを買うという消費形態から、商品選択から購入までネットを介して購入するeコマースといわれる買い物スタイルが急激に広がっているのだ。

 その主役はミレニアル世代と呼ばれる大まかに言えば1980年から2000年にかけて生まれた世代である。親やその上の世代と違って生まれた時からインターネットに馴染み、パソコンやスマホを生活必需ツールとして使いこなす彼らはリアル店舗に行き、売り場で商品を選ぶとういう従来の消費行動をしなくなっている。

 ベビーブーマー世代より人口が多く、今や消費市場の主役になりつつある彼らがネットを駆使する理由は、直接店舗に行って限られたアイテムの商品を見るより、ネットならばはるかに多くの商品から比較選択することができることができるためである。選択に迷えば、複数の商品を注文し、気に入ったものだけを選び、残りは返品すればいい。さらに売り手は「これを買った人はこんな商品も買っています」というような関連情報も購入者に提供する。このような買い物に慣れてくると、もはやリアル店舗を訪れるのは時間のムダということを実感してしまう。

 当然、そんなミレニアル世代の買い物スタイルに対応できない従来型の小売業は厳しい現実を突きつけられることになる。世界最大の小売業ウォルマートや同じく最大のホームセンターであるホームデポがリアル店よりIT投資に力を入れ始めたのはそんな理由からである。ホームデポの場合、かつては年平均150店舗以上を出店していたにもかかわらず、この5年はほとんど出店していない。だが売り上げはしっかり伸びている。それはアプリをリアル店舗の代わりに充実させるという戦略の結果だ。

 販売環境が劇的に変化しているなか、リテイルというジャンルの企業が具体的に何をし始めているかということを検証する。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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