2024年04月20日( 土 )

【書評】「反グローバリゼーションとポピュリズム 『トランプ化』する世界(激トーク・オン・ディマンドvol.11)」(光文社)

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トランプ現象を多角的な視点から深く掘り下げる

 本書は、著者の1人であるビデオジャーナリストの神保哲生氏が主宰するニュース専門インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」のニュース番組であり、今月で850回を迎える「マル激トーク・オン・ディマンド」で、「トランプ現象」と呼ばれる政治現象についてさまざまな専門家と議論を行った番組の内容を文字起こししたものに、加筆と修正を加えてまとめられている。

 トランプが共和党から大統領候補として台頭してきたところから、大統領選挙に勝利して大統領に就任し、トランプ政権発足に至るまでの選挙結果や政策についての評価、そして米国社会の変化についての分析など、徹底的に掘り下げられているのが特徴だ。

トランプ現象はグローバル化がもたらす1つの世界の縮図

 米国はグローバル化により、中間層の分断と没落の時代を迎えた。その結果、人々は対人関係ネットワークを失い、民主政の手続きを経た決定に対する正統性を受け入れることができなくなっている。つまり、自分の利益に則った政策決定を優先し、それ以外のことは、たとえ一国全体のための決定だとしても受け入れようとしない傾向となっているのである。このような国民共通のつながりの崩壊により、人々は考えが近い者同士で仲間を構成し、それに反する者を敵とみなすようになっている。正義よりも損得勘定を優先し、感情的な言い争いによって対立を生んでいる。

 以上のことを踏まえて世界に目を向けてみると、EU離脱やフランスの大統領選挙に挙げられるように、トランプ現象は米国に留まらず、世界のさまざまな場面で目撃する現象であることが理解できる。

拍車をかけるインターネット

 近年、ポスト・トゥルースやフェイクニュースの問題が話題となっている。また、トランプ政権下の米国では、トランプを支持するオルタナ右翼や白人至上主義者、そして数多くのヘイトグループが組織的に活動を展開している。これらはインターネットの普及による影響が、原因の1つとして考えられている。
 キャス・サンスティーンは、不完全情報の下で自分の興味・関心のある情報しか見ないことにより、特定のグループの意見に偏向していくことをサイバーカスケードやウェブのエコーチェンバー化という言葉を用いて警鐘を鳴らした。しかし、社会学者である宮台真司氏によると、現在はグループの主張に対して事実の反証データをつきつけても、その情報を頑なに受け入れることなく無視をするようになっており、さらに状況が悪化していると指摘している。つまり、「見たいものしか見ない」から「何を見ても同じものしか見えない」という、認知的不協和の事態に人々が陥り始めているのである。

他人事ではないトランプ現象

 トランプ現象にみられる変化は、政治的な変化のみならず、地球規模で社会全体の変化として受け止めるべきものであることが本書を読むと理解できる。“右”や“左”の意味がなくなるなかで、共同体が解体し分断された個人は、立ち止まって熟慮するよりも先に、反射的に共感できる言葉によって容易に動員されるようになる。そして、ソーシャルメディアや新しいテクノロジーはそのつながりの再設計の速度をさらに加速させる。
 世界が転換期を迎えている今、トランプ現象を他人事として考えている場合ではない。米国のTPPやパリ協定からの離脱、安全保障の問題などの外交面の問題はもちろんのこと、国内政治においては憲法改正の問題が浮上している。日本全体を左右する議論が適切に行われるかどうか、トランプ現象にみられるような分断を生じさせないようにするためにも、これからの社会の在り方を国民1人ひとりが、考えていく必要がある。
 本書は、現代の世界の変化を見ていくための最適な一冊となっている。

 

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