2024年04月26日( 金 )

交通事故による裁判が多いワケ

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 ある建設会社が損害賠償で訴えられている事件があった。工事や不動産に関わるものかと思っていたが、どうやら交通事故での話らしい。「交通事故なら、保険で解決できるはずなのに・・・」筆者も何度か軽度の事故に遭った経験はあるが、保険会社を通じて早期に解決していた。時間と費用をかけてまで、裁判まで起こす理由が想像できなかったのだが、実はそうでもないらしい。

 知人の弁護士に聞いてみると、「交通事故の被害者が、相手方を訴えるのはよくあることですよ。事件数も多いです」と切り出した。自身も交通事故の案件をかなり手がけているそうだ。交通事故に起因する裁判が多いことについて、次のように詳細に語ってくれた。


 交通事故に遭った場合、法的には被害者が加害者に対して、損害賠償請求をすることになります。裁判をするときは通常、保険会社を訴えるのではなく、加害者を訴えます。ただ、加害者が保険に入っている場合、裁判前の段階で、被害者は保険会社と交渉します。勿論、保険会社との交渉で示談成立することも多いですが、実は示談で成立するケースの多くは、被害者が無知であるために保険会社の低額の提示をそれと知らずに示談しているか、弁護士が入って解決しているかということになるかと思います。

 保険会社は、自賠責保険の基準、あるいは任意保険会社の独自の基準でしか賠償額の提示をしてきませんが、実際に裁判した場合の基準はもっと高額になることがままあります。治療費や通院交通費などの実費は保険会社の基準でも裁判基準でも差異はありませんが、慰謝料などは基準によって金額が全然違います。

 特に後遺症が認定された場合は顕著です。例えば、一番軽い14級という後遺症の場合、保険会社は、自賠責の基準である後遺障害に基づく損害一式75万円の提示しかしません。しかし、後遺障害が認定された場合、(1)慰謝料と(2)逸失利益(将来得られたはずの収入)の損害が認められ、裁判では(1)の慰謝料だけでも標準的に110万円が認定され、これに14級の場合、5%程度の労働能力を失うので、5%程度の収入を失うという考えで逸失利益を算定します。14級の場合5年程度しか認められないケースも多いですが、それでも数十万円程度にはなります。

 そうしますと、保険会社の提示に素直に応じると75万円しかもらえず、弁護士を入れて交渉すると110万円+数十万円を基準にした金額で交渉がまとまるということになります。勿論、この交渉の中で、折り合いがつかないと、ぐだぐだと交渉するよりも裁判した方が早いということもありますので、裁判になるケースも多いですよ。最近は、弁護士費用特約を付けている人も増えたので、裁判も増えています。知り合いの弁護士にも、保険会社と交渉しても埒があかないので、全件訴訟にする方針の弁護士もいます。


 無論、事故を起こさないに越したことはないが、仮に加害者になってしまった場合、裁判に発展することが珍しくないことを知っておいても無駄にはならないだろう。

【東城 洋平】

 

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