2024年04月20日( 土 )

裁判例に学ぶ労働時間管理(4)~ヒロセ電機事件(前)

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ヒロセ電機事件

 今回と次回の2回に分けて、労働時間管理に関して非常に参考となる裁判例を紹介していきます。事件名は、「ヒロセ電機事件」(2013年5月22日東京地裁判決)という裁判例で、タイムカード(入退館記録表)が存在し、従業員はこれに基づき労働時間を主張しましたが、それを否定する会社の主張がすべて認められた事件です。

基本的な考え方

 会社の主張が認められたといっても、裁判所は、労働時間の認定に関する基本的な考え方を取らなかったというものではありません。
 裁判例は、「原告が勤めていた被告の菊名事業所には、被告の施設しか入居していないことからすると、入退館記録表に打刻された入館時刻から退館時刻までの間、原告が被告の事業場にいたことは認められる。一般論としては、労働者が事業場にいる時間は、特段の事情がない限り、労働に従事していたと推認すべきと考えられる」と述べています。
 このことからも、裁判例が「事業場の滞在時間=労働時間」との基本的な考えに立っていることがわかります。そのため、会社で使用していた「入退館記録表」により労働時間が認定されてもおかしくありませんでした。

ヒロセ電機事件の特徴

 しかし、この事件は、一般的な事件とは異なり、入退館記録表ではなく、それとは別に会社が用いていた「時間外勤務命令書」により、労働時間を認定すべきであると判断しました。
 その理由の1つとして、裁判例は、「入退館記録表は警備・安全上の理由から建物の入口(1階通用口そば)で入退館時に打刻を義務付けているものであり、就業規則76条にも入場時および退場時に入退館記録表に打刻するよう規定されており」「入退館記録表の下部には、『タイムカード』と記載されてはいる。しかし、続けて『就規第14号様式』とも記載されており、入退館記録表は、出退社の手続きを定めた就業規則76条を踏まえた書式であることは明らかであり、『タイムカード』と記載されていることだけをもって、入退館記録表により労働時間の管理が行われていたと認めることはできない」と述べています。

タイムカードに代わる 労働時間の管理方法

 タイムカードの記載が会社における従業員の業務実態を適切に反映しているのであれば、それによる労働時間管理も問題があるとはいえません。しかしながら、従業員に関連する時刻を記録した資料がある場合、会社の意に反して労働時間と結びつきのある資料と判断されることがあります。
 この裁判例の「時間外勤務命令書」がどのようなものであったかについては、次回詳しくみていきますが、労働時間を管理する以上、その目的に適した方法をとるべきです。単に簡便だからという理由で、現在行っている労働時間の管理方法を維持しておくことは非常に危険です。
 タイムカードを用いながらも、それでは適切に労働時間を管理できていないのであれば、補助的に、あるいはそれに代わる別の方法で労働時間を管理し、そのことを就業規則などに明記することが求められるといえます。

(つづく)

<プロフィール>
中野 公義(なかの・きみよし)
なかのきみよし弁護士事務所
1977年4月生まれ。労働基準監督官、厚生労働省本省(労災補償、労使関係担当)勤務の経験から、労働事件に精通している。
URL:http://www.lawyer-kimiyoshi-n.com

 
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