2024年04月17日( 水 )

裁判例に学ぶ労働時間管理(6)~タイムカード以外の資料

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 今回は、タイムカード以外の資料により裁判所が労働時間を認定した事例をいくつかご紹介します。これらから見えてくるのは、「資料の目的」と「会社の認識」が重視されるという点です。

裁判所の基本的な考え方

 東京地裁の裁判官は、労働時間を認定する資料について、「目的」「客観性」「労働時間との結びつき」という観点から、その信用性を判断すると述べています(労働判例1128号・27頁)。

 裁判所は、会社が従業員の労働時間管理義務を負っていると認識しています。そのため、会社がその義務をはたすために用いる資料であれば、それにより労働時間を認定しても良いという考えがあると推測されます。つまり、その資料が労働時間管理を目的として作成されたものであるかどうかが重視される、ということになります。

資料の目的

 たとえば、スポーツクラブを運営する会社の管理職について、「被告における労働時間は、パソコン上に出退勤時刻を入力することによって勤務状況表に記録され、管理されていた」と述べて、従業員が自ら入力したパソコン上の勤務状況表により労働時間を認定しました(2012年4月17日京都地裁判決)。

 また、ホテルのレストランの料理人などとして勤務していた従業員について、「原告は、毎月10日締めで(賃金計算期間ごとに)、出勤および休日の日数、総労働時間、時間外労働時間、時間外労働のうち深夜勤務時間を記録した『勤務状況報告書』を作成し、これを料飲部の責任者に提出し、責任者による点検を受けていた」ことから、勤務状況報告書記載の通りの労働時間を認定しました(2011年5月20日札幌地裁判決)。
 裁判所は、会社が労働時間管理のため(目的)に使用しているものと認定すれば、従業員自身が記載した客観性の乏しい時刻であっても、それに基づき労働時間を認定することがあります。

裁判所による会社の認識の推定

 以上のような裁判所の考え方は、会社が労働時間管理の目的で作成した資料を用いる点で最もだとも思えます。しかし、会社にはそのような認識がないにも関わらず、「労働時間管理の目的」「会社にもその認識がある」と裁判所が判断してしまえば、事実とは異なる労働時間が認定される危険性があります。
 たとえば、美容品販売の営業を行っていた従業員について、その作成・提出した出勤表に記載された時刻について「被告から原告らに対し異議が述べられた形跡がないことに照らすと、被告は、従業員からこれらの出勤表の提出を受けることにより原告らの労働時間を管理しており、かつ、……異議がないものとして承認していたと推認することができる」(2012年10月30日東京地裁判決)と述べて、会社にも、そのような認識があったと推定しています。
 会社内で、日報や報告書に不必要な時刻の記載が残っている場合、裁判所に誤解を与えかねません。そのようなことを避けるためにも、日報の体裁を見直す、形式的にタイムカードを使用しないなど、適切な方法で労働時間管理がされるべきです。

(つづく)

<プロフィール>
中野 公義(なかの・きみよし)
なかのきみよし弁護士事務所
1977年4月生まれ。労働基準監督官、厚生労働省本省(労災補償、労使関係担当)勤務の経験から、労働事件に精通している。
URL:http://www.lawyer-kimiyoshi-n.com

 
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