2024年04月19日( 金 )

日本最大級・伊都キャンパスで開く九州大学の新展開(後)

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九州大学 総長 久保 千春 氏

 2018年、九州大学は伊都キャンパス(福岡市西区)への移転を完了する。箱崎キャンパス跡地の約6倍、単独キャンパスとして日本最大級の広さを誇る伊都キャンパスでは、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)による世界レベルの研究が行われ、また4月からは新学部「共創学部」がスタートする。任期半ばを迎えた久保千春九州大学総長に、18年の展望についてうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役・児玉 直)

「起業部」も好調 大学発ベンチャーの時代へ

 ――近年、産学連携や学生による起業も増えてきました。九大としては、どのような取り組みをしておられるでしょうか。

 久保 九州大学は、産業界との結びつきも非常に強くなっています。私自身、九州経済連合会の理事でもありますし、17年2月には九州・大学発ベンチャー振興会議を立ち上げました。九経連の麻生泰会長との共同代表で、大学発のベンチャーをしっかり支援していこうという仕組みです。他に、九大にはQBファンド(QBキャピタル合同会社が運営する、九州地域の大学発ベンチャーを支援するファンド)があり、先ほどのKyuluxもここから投資を受けています。17年6月には、学生による「起業部」という活動がスタートしたのも報道された通りです。

 ――学生による起業も、これからはより期待できますね。

 久保 もうすでに、かなり進んでいます。17年春の卒業生でも、(株)糸島ジビエ研究所(西村直人代表)、(株)日本風洞製作所(ローン・ジョシュア代表)などが起業しています。このような素地が、九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)でのアントレプレナー教育によって培われてきました。QRECは全学部の学生が学ぶことができます。また、シリコンバレーへの短期留学など、さまざまな支援を行っています。学生ベンチャーが生まれるための機運が高まっていることもあり、起業部には、創部当初150名の学生が集まりました。今後は毎年平均5社、10年間で50社の学生ベンチャー創出を目指します。彼らを支援するメンターも大勢います。また、福岡市が運営するFukuoka Growth Nextにも、起業部のHeadQuarter(HQ)を設置しています。早速、17年の九州最大のStartupイベント「Startup GO!GO! 2017」で『NOVIGO』が優勝ならびにNEDO賞を、『nyans』がNICT賞を受賞しています。

箱崎キャンパス跡地利用は重要課題の1つ

 ――ビジネス的な観点からしますと、伊都キャンパス移転後の箱崎キャンパス跡地の行方も気になるところです。

 久保 箱崎キャンパスの跡地を確実に売却することは、伊都キャンパス建設のための財源確保の点では非常に重要なことだと認識しております。かつての国立大学とは違って法人自らが資金を調達し、自分たちで大学を経営していかなければいけません。国からの運営費交付金以外に財源をどう確保していくかが大きな課題になってきます。

 ――ということは、箱崎キャンパスの45haある敷地をなるべく高く売る必要がありますね。

 久保 もちろん高く売る必要はありますが、そのためにも土壌汚染(旧工学部二号館跡で、環境基準を超える水銀・ヒ素・鉛・六価クロムによる汚染が発見された)の適切な処理や発見された遺跡の取扱いについて、関係者との協議などに取り組んでいきます。

 ――今、あのあたりは土地の値上がりが続いています。この時期に売却できるとだいぶん違いますね。

 久保 もう少し時間がかかりそうなので、どうなるでしょうか。相手があることですからこちらの思い通りにいくものではありませんが、箱崎キャンパス跡地は大学のみならず、福岡市(地域)にとっても大切な財産です。未来につながるかたちでの跡地利用を進めたいと考えています。

研究と人材育成が大学の責務

 ――昨今、世界の大学ランキングがマスコミで取り上げられることが増えています。九州大学も、「世界のトップ百大学に躍進する」ことを目指す「躍進百大」というスローガンを掲げています。

 久保 これは、改革を続けて教育の質を上げ、未来の課題に挑戦し続けることで結果的にトップ百大学に躍進するという意味です。つまり、ランキングを上げることのみを目的にしているわけではありません。大学の役割は、優れた教育を提供して人材を育成すること、そして世界最先端の研究を行っていくことです。「大学ランキング」はそのための指標の1つであると捉えています。

 ――だから日本の大学は不利なんですね。

 久保 ランキングに一喜一憂することはないと思います。QSランキング(英クアクアレリ・シモンズ社)は、「研究者からの評価(40%)」「企業の評価(10%)」「教員1人あたりの学生数(20%)」「教員1人あたりの論文被引用数(20%)」「外国人教員比率(5%)」「留学生比率(5%)」です。論文の質を測る指標といわれる被引用数の割合は20%で、評判調査の割合が50%を占めており、主観的な要素も大きいわけです。ただ世界中の学生の進路選択の参考になっていることもあり、見過ごすわけにはいきません。

 ――日本の大学がランキングに入っていないとか、順位を落としたとか話題になりますが、九州大学として大切にしていらっしゃるものはなんでしょうか。

 久保 やはり、大学として重視するべきなのは、すばらしい研究を行ってよい人材を輩出する教育を行うこと、さらに社会に貢献すること。この3つの柱を大切にしていきたいと思います。

(了)
【文・構成:深水 央】

<INFORMATION>
(大)九州大学
所在地:福岡市西区元岡744
設 立:1911年
経常収益:(17/3)1,264億2,328万円

<プロフィール>
久保 千春(くぼ・ちはる)
1973年九州大学医学部卒業。アメリカオクラホマ医学研究所clinical research scientist、国立療養所南福岡病院内科医長、九州大学医学部心療内科助手を経て、93年九州大学医学部心身医学教授。2008年に九州大学病院長に就任。14年から第23代九州大学総長を務める(任期は2020年9月30日まで)。九州経済連合会理事、九州・大学発ベンチャー振興会議共同代表、大学ネットワークふくおか会長、ILCアジア-九州推進会議共同代表、福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)副会長などを務める。

 
(中)

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