2024年04月25日( 木 )

世界市場で予想される音の戦争(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 人間は五感を使って、まわりのことを認識しているが、そのなかでも視覚と聴覚は人間の認識において一番大事な役割をはたす。ところが、離れた人同士がコミュニケーションするときには、視覚は使えないので、聴覚がもっと大事になる。見るという行為は視覚効果があって、相手に訴えやすい側面があり、聴覚より優先されがちである。しかし、聴覚に頼る音も認識やコミュニケーションにおいて映像に勝るとも劣らぬほど大事である。

 音に対する表現は色々ある。音声、音楽、音響、サウンドなどである。今回はそのすべての総称である音で話を進めていく。電波を使って音を遠くまで送る技術が開発されたのは、ラジオ放送と通信の元祖に当たる電話である。

 韓国でラジオ放送局を最初に開局したのは、1927年に設立された京城放送局である。それから、韓国で初めてラジオを製造、販売したのは、今のLG電子の前身である金星社で、1958年のことである。音を遠くまで送るラジオ放送と電話の場合には、音をいかにきれいにして聞きやすいようにするかが課題であった。技術が進んで音がある程度、鮮明になったら、次に求められたのは、ラジオ放送を保存し、再生できるようにしたいというニーズだった。その結果生まれたのがカセットテープである。

 カセットテープは音楽を聞いたり、語学勉強をしたりすることなどに利用されていた。そのカセットテープを使って、いつでもどこでも音楽を聴けるようにしたのがウォークマンである。ウォークマンは時代の需要にマッチングした商品で、世界的なヒットになった。しかし、次第に映像技術が開発されることによって、放送も徐々に映像が中心になっていくし、映像技術は映画というもう1つの産業を生むことになる。

 米国では1920年代に世界的な映画制作会社が誕生する。コロンビア、ユニバーサルスタジオ、MGM、パラマウント、ワーナー・ブラザースなどである。その当時の映画制作会社のパワーのバロメーターは映画館をいくつ保有しているかであった。ところが、ワーナー・ブラザースは当時、映画館を1つも持っていなかった。そこで、劣勢を挽回するため、映画に音を導入した「ジャズシンガー」という映画を初めて制作することになる。

 意外かもしれないが、最初の映画には音が導入されていなかった。テレビが登場する前までは、映画は庶民の一番のエンタテインメントで、映画を中心に音響は発展を遂げていく。一方、家庭では、オーディオセットが必需品になっていく。そのような環境のなかで、世界のサウンド市場を牛耳っていたのはドルビーラボラトリーズ(以下ドルビー)である。

 ドルビーシステムという言葉を皆さまもどこかで聞いたことはあるのではなかろうか。1965年に設立されたこの会社は、最初はノイズを除去することに尽力していた。音を高音低音などいろいろな帯域に分けた後、ノイズを除去する技術を開発した会社だ。

 この技術はカセットテープには欠かせない技術で、ソニーのようなカセットテーププレイヤーの製造会社は、ドルビーに技術のライセンス費用を支払うようになった。このビジネスモデルでドルビーは莫大な収益を上げることになる。

(つづく)

 
(後)

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