2024年04月19日( 金 )

「大逆転の時代」到来を告げる「一帯一路」構想!

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 4月10日(火)午後5時半から約3時間に亘り「27周年記念・第158回ビジネスインテリジェンス情報研究会」(共催:日本ビジネスインテリジェンス協会、工学院大学孔子学院)が新宿の安与ホール7階で開催された。今回のテーマは「一帯一路」である。当日会場には、ほぼ満席となる、会員を中心に60名を超える関係者が集合した。
 折しも、16日には8年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」が再開する。中国の王毅外相の来日に合わせ、広域経済圏構想「一帯一路」への協力や貿易、投資の課題を話し合う。2018年は日中平和友好条約締結40周年の節目であり、5月に予定する日中韓首脳会談を前に関係改善の流れに弾みをつけるためだ。

日中がよい絆を築き、21世紀をアジアの世紀に

 中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会会長(名古屋市立大学特任教授)と高橋恵子・工学院大学孔子学院学院長の開講挨拶に続き、5人の講師による内容の濃い講演が続いた。

(1)「一帯一路とアジアの時代の到来」(谷口誠・元国連大使、元OECD事務次長、元岩手県立大学学長)~谷口氏は長い国連生活の経験から、フランスやドイツの熟慮あるしたたかさに言及、また中国にとって100年とは決して長い期間ではないことを指摘した。そのうえで、日中がよりよい絆「AIIBに参画、一帯一路構想に協力」を築くことができれば、21世紀は間違いなくアジアの世紀になると結んだ。

(2)「ASEANの視点からの一帯一路」(朽木昭文・日本大学教授、国際アジア共同体学会理事長)~朽木氏は中国の成長戦略を4つ (1)FDI(外国直接投資)の導入(2)自由貿易試験区(3)Connectivity(連結性)の強化=広義の輸送費の削減(4)一帯一路参加国での産業集積地の建設を挙げ、中でも連結性の重要性を強調した。

中国は外資受け入れも海外投資も世界第2位に

(3)「一帯一路の現状と将来」(江原規由・国際貿易投資研究所研究主幹)~江原氏は中国の対外経済戦略(走出去)は「一帯一路」と「国際産能合作」の2本柱となっていることを指摘した。国際産能合作とは、中国に進出した外資系企業が、中国企業と一緒になって第3国へ出る、投資することを意味する。中国は現在世界第2位の外資受け入れ国で、同時に世界第2位の海外投資国でもある。一帯一路の経済規模は世界の30%で、人口は世界の60%を占める。中国はこれらの国々と新しい国際関係「伙伴関係」(パートナーシップ)を構築したいと考えていると述べた。

(4)「ユーラシア・アジアのエネルギー分野と一帯一路」(渋谷祐・中国研究所21世紀シルクロード研究会代表)~渋谷氏はエネルギー専門家の立場から、「一帯一路」戦略は、歴代政権とは違い、その骨子はグローバルな「スマートグリッド+超高圧送電網+クリーンエネルギー」の3部合作を構築すること、低炭素社会を目指していることを指摘した。

(5)「福島原発事故と東京オリンピック問題」(村田光平・元駐スイス大使)~村田氏は「一帯一路」とは離れ、「under control」とは、ほど遠い状態にある福島原発の危険な現状に対して改めて警鐘を鳴らした。

新興経済国G7のGDP総計が先進国G7を超えた

 5人の講演後、10分間の休憩をはさんで、進藤榮一・国際アジア共同体学会会長、筑波大学名誉教授の総合コメントがあった。進藤氏は開口一番「時代の潮流が変わった、世界は大逆転している」と指摘、以下のように語った。

 「2014年に購買力平価ベースで、新興経済国G7(ブラジル、ロシア、インド、中国、インドネシア、メキシコ、トルコ)のGDP総計が先進7カ国(米英仏独日加)のGDP総計を上回った。2010年には、中国は日本のGDPを超え、14年には2倍になり、19年には5倍になることが予測されている。(IMF『世界経済の見通し』2014.10.7)
 世界は南北も、東西も大逆転しつつある。グローバルガバナンスのあり方も変わり、軍事そして軍備によって、先進国が基地をつくり、同盟国をつくり、途上国を支配・従属させる時代ではなくなった」

新しい国際関係である「伙伴関係」を構築する

 ではこれからどんな世界になっていくのだろうか。進藤氏は「一帯一路」を推進することによって起きる変化を3つ述べた。

 1つ目は、新しい国際関係「伙伴関係」(パートナーシップ)で構築される世界の出現である。2つ目は、欧米が領土を拡大して資源・エネルギーを確保するのでなく、先進国と途上国が協力して、新しい資源・エネルギーをつくる世界である。3つ目は、貧困・テロを先進国、途上国という主従関係でなく、途上国を包み込む、Win-Winの関係によって解決する世界である。最後に、進藤氏は、21世紀以降は、欧米を中心に武力で支配する「父性文明の時代」(16世紀~20世紀)が終焉し、インフラ、開発、通商から文化交流まで、あらゆる領域でお互いを包み込んでいく「母性文明の時代」に変わっていくことを示唆した。

 進藤氏の総合コメントの後に、御意見番であるドクター中松(義郎)・日本ビジネスインテリジェンス協会名誉顧問の講評を経て、参加者は会場を移し、和気藹々と夕食を楽しんだ。

【金木 亮憲】

【一帯一路】
 2013年に中国の習近平国家主席が提唱した経済圏構想。中国西部と中央アジア・欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部と東南アジア・インド・アラビア半島・アフリカ東を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の2つの地域でインフラ整備および経済・貿易関係を促進するというもの。

 

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