2024年03月30日( 土 )

シリアをめぐる米ロの対立は第3次世界大戦への幕開けか?(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 2011年以降、アメリカとイギリスの特殊部隊はシリア国内で反体制ゲリラ組織に対する軍事訓練を継続し、アサド政権の内部からの崩壊を画策していたことは疑いの余地はない。そうした欧米の工作に対抗するため、アサド政権はロシアに支援を求めたといえるだろう。

 そうした過去のいきさつを考慮すれば、今回の欧米3カ国のシリア攻撃の理由とされる神経ガスの使用に関しても、はたしてアサド政権が実際に使用したかどうかについては議論が分かれるところである。
その直前に起こったイギリスにおけるロシアの二重スパイであったスクリパル親子に対する暗殺未遂事件に関しても、イギリスのメイ首相は旧ソ連時代に開発されロシアが所有する神経ガスが使われたことは間違いないと断定。自国におけるロシアの違法行動であり、ロシアの外交官を一斉に追放する決断を下した。

 その決定に追従するかたちで、アメリカやフランスなどのヨーロッパ諸国もロシア人外交官を国外追放することになった。当然のごとくロシアも反発し、欧米諸国の外交官をロシアから追放するという報復処置を取った。まさに、開戦前夜といった雰囲気である。

 しかし、イギリスで使用されたとされるロシアの神経ガスに関しては、その出所については明確な説明がなされていない。ロシア政府はそのサンプルの提供を求めているが、イギリス政府は一切応じようとしていないからだ。何か裏がありそうな雰囲気が漂う。

 思えば、アメリカ、イギリス、フランスによるシリア攻撃の結果、欧州最大の兵器メーカーであるイギリスの「BAEシステムズ」の株価が急騰を続けている。そして同社の最大株主はイギリスの「キャピタル・グループ」であり、この投資会社の役員を2005年から務めているのがメイ首相の夫であるフィリップ・メイその人である。

 ほかにも、今回のシリアに対する攻撃の結果、欧米の軍事産業の株価はいずれも史上空前の高騰ぶりを見せている。まさに「戦争こそ最大のビジネス」という状況である。アメリカ軍が撃ち込んだ105発のミサイルは前回同様、その大半は旧式のもので、いわば在庫一掃セールに近いものだった。最新鋭の巡航ミサイルは数発だけであり、空爆に参加したパイロットも実践経験不足を補う目的が大きかった。とはいえ、本格的な戦争に対する準備としては成果があった模様で、アメリカのロッキード・マーチンやレイシオンの株価も「次に備えて発注確実」ということで、急騰している。

 また、中国の動きも無視できない。なぜなら国内にウイグル族を始め少数民族問題を抱えている中国にとって、2016年に中央アジアのキルギスにある中国大使館がアルカイダと思しきイスラム過激派によって襲撃を受けた事件はいまだに尾を引いているからだ。その後、中国国内のみならず海外に進出する中国企業や中国人がテロ攻撃の対象になる事件が頻発している。

 実はシリアに存在するテロ組織の訓練施設で訓練を受けたテロ集団がウイグル始め中国国内に潜伏し、新疆ウイグル地方における騒乱状態を巻き起こしていると受け止められている。問題はそうしたシリアに存在するテロリスト訓練施設をアメリカが資金面ならびに武器の提供などを通じて支援していることに対し中国が危機感と不信感を抱いていることであろう。

 そのため「中国とロシアが手を結ぶ」という、アメリカにとって最悪のシナリオが現実化する可能性が今回のシリア問題をきっかけとして急浮上しているのである。すでにロシアと中国は地中海、バルト海、南シナ海、そして日本海でも合同軍事演習を繰り返している。日本も「遠いヨーロッパの出来事」と、高をくくっている場合ではないだろう。

 2012年の段階で、ロシアと中国はイランとシリアを加えた4カ国で兵士9万人、戦闘機400機、戦車1000台を動員する大規模な戦闘訓練を計画していたほど。それほど、シリアはアメリカにとってもロシアにとっても欠かせない要衝なのである。そこに2度目のミサイルを撃ち込んだトランプ大統領。アメリカとすれば、北朝鮮へのけん制の意味を込めていたのかもしれないが、ロシアと中国を急接近させるきっかけを与えたとすれば、その影響は深刻な結果をもたらすに違いない。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
(中)

関連記事