2024年04月20日( 土 )

近づくレッドオーシャン~米巨大DgSに見る次の一手(中)

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生鮮ニーズ低下でSMの利用価値も低下する

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 総務省の調査によると我が国の総世帯数は5,340万件である。その構成人数は2.38人。平成の初めには3人を超えていたこと考えれば極めて大きな減少である。これは家庭で材料から調理することの非効率につながる。3人なら家庭で調理をする意味も小さくないが、2人になればわざわざ手間をかけて調理をするより出来あいのお惣菜を買った方が手軽で便利ということになる。

 いま、日本の共稼ぎ世帯は1,180万世帯。単身世帯は1,800万世帯。過去に言われた夫婦子ども2人という標準世帯は今や幻に過ぎない。さらにそれに祖父母が加わるという大家族形態はほぼ皆無だ。いくら売り手が新鮮で高質の生鮮売り場を提供してもその効果は期待薄ということになる。 

 「生鮮がなければ日常食生活は完結しない。それなのになぜ顧客はDgSに行くのか?」。最近、ナショナルSMチェーンのトップの口から出た言葉である。過去のライフスタイルに沿った見方ならもっともな疑問だ。また、別の関西本拠のリージョナルチェーンのトップはコスモス薬品の売り場を見て呟いた。「生鮮をつければスーパーやないか!」。

 そんなDgSの大きな特徴は人口1万人を切る小商圏で成立するというところにある。それは通常型SMの半分、高質型の3分の1である。成立する立地条件が緩いのである。

 まず、SMに比べて店舗の建設コストも運営コストも半分以下である。商品の廃棄ロスもはるかに少ない。SMよりはるかに低い利益率や坪あたり売り上げで経営できるということである。総菜や生鮮などの店内製造技術も不要だから社員の業務習熟度もSMほど要求されない。この業態が、圧倒的なスピードで店舗拡大ができる理由である。

 SMとDgSが同列で比較されるのはその商品構成にある。日本のDgSの特徴はドラッグという名前の割に薬品以外の商品構成が高いことだ。大手DgSチェーンのなかには食品の構成が50%を超える企業もある。この企業の1店舗の平均売上は6億円強だから、半分の3億円が食品ということになる。

 一方、地場大手スーパーマーケット企業の生鮮を除く食品1店舗売上高は5億円余りだ。隣接すれば当然、その影響は少なからず発生する。スーパーマーケットの経営陣がDgSを強く意識する理由だ。
 そんな両者の決定的な差は経費率だ。生鮮のないDgSの販売管理費率は15%程度、生鮮部門をもつス

ーパーマーケットのそれは24%前後というのが普通である(【表Ⅰ】参照)。経常利益を比較しても両者の優劣が見て取れる。

DgS店舗は国民6,600人に1店舗

 処方箋で出される薬の国内市場額は10.5兆円前後で推移している。一方、一般医薬品といわれる市販薬は風邪薬を筆頭に全体で8,000億円程度といわれる。年間6.5兆円といわれるDgS取扱商品関連市場だが、上位10社の年間売上合計はすでに4兆円とその65%を占め、下位の企業を加えると全体の売上はその75%を超えるところまできている。店舗数は1万9,000店、国民6,600人に1店舗ということになり、1万人に1店舗という適正店舗数を超えた。ここまで来るとこの先に待つのは“レッドオーシャン”と表現される過当競争だ。実際、店舗数の増加に対して企業数は減少を始めている。競争から脱落する企業が出始めているということになる。

 次に始まるのは大量出店による好立地の減少による同業との隣接出店や都心部への出店だ。隣接競合はいうまでもなく売上の低下をともなうのが普通だ。いかに販売管理費が低いといっても競合により店舗売上が低下すれば販管費率は大きく上昇する。小売業の場合、その大部分は固定的なものだからだ。人口密度の高い都心部への出店も一見妥当に見えるが、賃借料や人件費などの営業コストが高くなる。もともと低い粗利益率と経費率で運営してきた企業には小さくない問題である。過去、GMSも同じ構造に見舞われ、多くの大規模企業がその姿を消した。競合により坪あたりの売上が大きく減少したからである。同じ構造が多店舗化、売り場面積増という規模拡大にはつきものなのだ。それだけではない。今はそれなりの強さをもつDgS業態だが、同業競合に加えて、今後はAmazonに代表されるECやコンビニなどのこれまでとは異質の競争者との競争にも晒される。

(つづく)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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