2024年03月28日( 木 )

【米朝首脳会談】予想通り包括的な文書に署名~「完全な非核化」は口約束レベル

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 12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談は、両首脳が包括的な合意文書(共同声明)に署名した。その内容は具体性に欠く包括的な内容にとどまった。共同声明は、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)に言及していない。金正恩委員長の「完全な非核化」言及は、口約束のレベルである。トランプ氏が大口を叩いてきた割には、内容のない「歴史的会談」だった。

 今回の首脳会談は異例づくめだった。
 まず北朝鮮のトップを、飛行機で半日近くもかかる第3国に招き出したことだ。北朝鮮の体制安定度を測る恰好の機会になった。2番目は金正恩委員長の視野と決断力を測定できる機会になったことだ。3番目は「北朝鮮の非核化」に北朝鮮がどの程度踏み込むかという点だ。もちろん3番目が最も重要であった。
 しかし、合意文書は予想されたレベルを下回り、具体性に欠ける内容だった。
 ポイントは(1)米朝関係の正常化(2)朝鮮半島の平和体制保障(3)朝鮮半島の完全な非核化(4)朝鮮戦争の遺骸送還――の4点である。これは先の南北首脳会談の合意レベルと変わらない、微温的な内容である。従来の六カ国協議の水準と変わらないレベルだ。

 署名に際して、トランプ氏は「非常に重要で包括的な文書だ。大変すばらしい時間をすごし、いい関係を築くことができた。非核化プロセスは迅速に始まる」と述べた。金委員長は「両国の関係はまったく新しいものになるだろう。過去とはまったく違う状況が展開するだろう」と強調した。トランプ氏は金委員長をホワイトハウスに招く意向を明らかにした。
 日本政府の期待を下回る「北朝鮮ペース」の会談だった、というしかない。米国はいつまで過去の誤りを繰り返す国家なのだろうか。

 トランプ氏は午後5時から記者会見した。
 会見は30分以上におよんだが、その内容は乏しく、記者団を失望させた。
 「北朝鮮はすばらしい可能性がある」「金委員長は大胆なステップを踏み出した」「朝鮮戦争がまもなく終わるという希望をもつことができた」「金委員長は朝鮮半島の非核化に向けて揺るがない決意を示した」「当面は制裁を続ける」「金委員長はすぐに(非核化の)プロセスに着手するだろう」「アメリカは妥協しない」。
 そして記者の質問に答えて、やっと「人権問題についても話し合った」「拉致問題も提起した」と言及したのである。
 北朝鮮メディアは金正恩の動向を、異例のスピードで伝えた。
 労働新聞は金委員長が11日夜、シンガポールの観光地をめぐって数時間後には、写真14枚を掲載して、植物園や天空プールを歩く姿を伝えた。朝鮮中央通信は金氏が「シンガポールは清潔で、建物がどれも洗練されている」と述べたことを伝えた。スピードに加え、その内容も異例である。金正恩氏は、北朝鮮の体制安定度を世界に示すかたちになった。
 トランプ大統領のスタンスは経済支援に関して、米国の腹は痛めない姿勢である。
 北朝鮮の経済支援に関しては、彼は「韓国や日本に任せる」と言明した。小泉政権時代、金正日書記は「日本からの特需がある」との情報を受けて、拉致被害者の一部送還に応じた。情報源は金大中・韓国大統領(当時)だった。その金額は1兆円(約100億ドル)だった。
 トランプ大統領は今回、その前例を踏襲しながら、金正恩氏の「軟化」を誘導した形跡がある。迷惑な話である。

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

 

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