2024年03月29日( 金 )

舞台は法廷へ~終わり見えぬ産廃処分場乗っ取り事件(後)

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福岡市博多区 金隈産廃処分場

狙いは処分場の拡張か

 当時(17年7月)の取材でわかったのは、和幸商会の備品や設備などの動産はもちろん、「現金になるものは、ほとんど売り払われてしまった」という実情だった。処分場の受入容量も限界点に近づきつつあり、産業廃棄物の最終処分場が満杯になってしまえば金を産まなくなるため、処分場の土地や株式も売却していた。そのため、今回の乗っ取りが実行される前の構図は、産廃処分業の「許可」は和幸商会、処分場の土地を「所有」するのはクリーン金隈、「経営権」は両社の全株式を保有する吉岡直之氏という複雑な構図になっていた。そうした状況で経営陣らが思いついたのは、処分場の拡張だった。
 もし、拡張が許可されれば、15~20万m3の受入容量が生まれ、6億円から10億円の売上が見込めるという。関係者によると、遅くとも昨夏ごろから和幸商会は処分場の拡張を計画し、関係各所に相談をもちかけていた。市の担当者も、和幸商会から拡張の相談を受けていることを認めている。
 拡張さえ実現できれば、仕事はある。拡張の可能性を知り得たころに、事業を手放す方針から、乗っ取り計画へと舵は切られたのだろう。

処分場の譲渡示す「誓約書」

 株主の知らぬところで交わされていた文書が、もう1枚見つかった。それが、昨年11月1日に和幸商会と(株)盛大の間で交わされた「誓約書」である。
 内容は和幸商会が安定型埋立処分業の許可と、土地を含むすべてを盛大に譲渡するというものだ。この文書についても、株主である吉岡直之氏は知らされていなかった(なお、産廃処分業の許可は福岡市から認められたもので、営業譲渡された場合には新しく許可を得ることが必要になる)。
 和幸商会には、誓約書を書かざるを得ない事情があった。それが過去に犯した助成金不正受給の返還義務である。13年12月、福岡労働局は、和幸商会が「雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金」を不正に受給したことを公表している。不正に受給した助成金は約6,700万円。和幸商会の現状では、支払える見込みはない。所有不動産は差し押さえられており、売上が和幸商会の口座に入れば、すぐにもっていかれてしまう。それを防ぐためには、売上金をどこかに流す必要があった。

誰が最も利を得るのか

 そこで、盛大の口座を利用したと考えられる。関係者への取材で、昨年11月以降に、処分費用の振り込み先が和幸商会から盛大へと変更されていることがわかった。さらに、和幸商会の売上回収役は柏田氏が務めているという。
 盛大へすべてを譲渡したかたちにしておけば、取引先も怪しむことなく、盛大へ費用を振り込む。こうして和幸商会は、差し押さえから逃れることができるというわけだ。

被害訴え、告訴状提出

告訴状を提出する様子

 3月末、役員の辞任届を偽造、提出されたとする吉岡直之氏が、博多警察署に告訴状を提出していたことがわかった。吉岡氏は、一連の不法行為により多大な損失を被ったと訴えていた。告訴されたのは、2社の現経営陣である伊藤博之氏、箭内伊和男氏、柏田清光氏の3人。3人は、市役所への手続きが必要だと伝え、吉岡氏から住民票などを入手したうえで、辞任届、議事録を偽造。正式な議決が行われたと偽って法務局に届け出た疑いがある。告訴人は、これらの行為が「私文書偽造」「公正証書原本不実記載」などに該当すると主張している。
 また同じころ、吉岡氏が(株)クリーン金隈の登記上の代表取締役である伊藤博之氏の職務執行停止の仮処分命令を裁判所に申し立てていることもわかった。同処分場の土地所有権をめぐる、不可解な不動産取引が発端のようだ。和幸商会はクリーン金隈に15年4月に土地を売却。その後、購入したクリーン金隈が個人に16年9月に転売したことになっているが、17年3月にクリーン金隈が処分禁止仮処分を申し立てた。そのうえで福岡地裁に登記された所有権移転、および抵当権設定の抹消を訴えたのだ。
 このように、吉岡氏がクリーン金隈の代表として、現所有者から不動産を取り戻そうとしていた最中に、一連の乗っ取り事件が勃発。違法行為により、クリーン金隈の代表者に就任したのは伊藤博之氏。この伊藤氏が何らかの理由で処分禁止仮処分を取り下げようとしていることに気づいた吉岡氏が、対抗措置を取ったもの。取り下げを阻止するために、伊藤氏の職務執行の停止を申し立てているが、伊藤氏ら乗っ取り経営陣は辻褄の合わない反論を展開している模様。早ければ7月中に、裁判所の判決が下る。

(了)
【東城 洋平】

 
(前)

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