2024年04月24日( 水 )

小池「安全宣言」はまやかし!豊洲市場は建築基準法令違反を専門家が解説

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏

 7月31日、豊洲市場の土壌汚染問題に関する「安全宣言」を行った小池百合子東京都知事。あたかも豊洲市場をめぐる問題がすべて払拭されたかのような物言いだが、既報の通り、豊洲市場の水産仲卸売場棟は、建築基準法令違反が指摘され、これを争点として、移転を強いられる築地市場の仲卸業者らが東京都を相手取り、訴訟を起こしている。このような状況で、豊洲への移転が本当に安全といえるのか――。(協)建築構造調査機構・仲盛昭二代表理事が、争点となる『建築基準法令違反』について解説する。

法令違反の証拠は市場問題PTの説明資料

 下記の図表は、東京都の市場問題プロジェクトチーム(以下「PT」)第2回会議(2016年10月25日)において日建設計が参考として配布した資料4-2「豊洲市場の建物の構造安全性に関する参考資料」の9頁の資料である。

クリックで拡大
 

 日建設計がPTに提出した上記資料において、虚偽の説明がされており、重大な詐欺的行為であることが判明している。

 説明資料の上記部分は、「Dsに0.05の割増をする必要はない」と、もっともらしい説明をしているが、SRC用スーパーハイベースのカタログには、「Ds割増」に関する記載はない。「Ds割増」に関する記載があるのは、鉄骨用ハイベースである。
 本来、RC造のDsで保有水平耐力計算をすべきところを、日建設計はSRC造としてDsを不正に低減して計算をしたので、これを正当化するために、苦しまぎれに、鉄骨用ハイベースの「Dsの割増不要」という表記を、あたかもSRC用の表記であるかのごとく説明資料に利用したのである。

Ds割増の有無は鉄骨造における、柱脚種別による設計ルートの規定

クリックで拡大
 

 前記の通り、鉄骨造で露出柱脚の場合、柱脚が保有耐力接合か否かなどにより計算方法が異なる。(下のフロー図はハイベース工法のサイトより引用)

 鉄骨造でルート3の設計の場合、柱脚が保有耐力接合ではない場合、1階のDsを0.05割増して保有水平耐力計算をしなければならない。(図中の(9))
 日建設計が説明資料で強調しているのは、「SRC用スーパーハイベースは評定を取得しているのでDs割増が不要」ということであるが、「Ds割増不要」は純鉄骨造の場合である。SRC造は、前記の柱脚種別による鉄骨造の設計フローとは次元が異なるのであり、もちろん、豊洲市場水産仲卸売場棟の設計には何ら関係がない。
 鉄骨造とSRC造、次元の異なる両者を強引に結び付け、「評定」という魔法の言葉を用いてPT委員を欺くという、建築設計者として良心の欠片も感じさせない傲慢な行為を行ったのである。

日建設計が虚偽の説明資料を提出したワケ

 日建設計が2016年10月25日の第2回会議の参考資料に「Dsの増減」に関する虚偽の資料を提出した理由は何か――。
 第2回会議では、柱脚やDsについて論じていないし、第1回会議においても議論されていない。16年10月18日から同月20日にかけて5回にわたり、豊洲市場の耐震偽装に関する記事がNetIB-NEWSに掲載されたので、この対策として、10月25日の会議に間に合うよう、急遽、資料に追加されたものと思われる。
 柱がSRC造であることは日建設計も認めている通りである。それゆえ、柱脚の既製品はSRC用スーパーハイベースが使用されている。SRC造なので、「鉄骨造におけるDsの割増の規定」はまったく関係ないので、論じる必要はない。
 日建設計が提出した資料に記載された「Dsに0.05の割増をする必要はない」という、本件の構造とまったく関係のないコメントは虚偽であり、まさに、偽装に偽装を重ねている。一度嘘をつけば、次から次に嘘を重ねなければ、嘘がばれてしまう構図と同じであり、私の指摘により、日建設計の嘘が明るみになったのである。第2回PTに提出された資料の別のページには下記のような記載もある。

 日建設計が「豊洲市場の建物は法令を遵守している」と本気で考えているのであれば、豊洲市場以外の、日建設計が関与した全国の建物においても、建築基準法違反に気付かないまま、建物が建設されている恐れがある。

 逆に、建築基準法令違反を認識していながら、このようなコメントをPT資料に記すということは、都民やPT委員を愚弄しているといえる。事実、PT会議に出席している建築関係者には建築構造の専門家は少なく、森高英夫(一社)日本建築構造技術者協会(略称「JSCA」)会長ぐらいである。

 前回の記事でも書いたように、日建設計の代表としてPT会議で説明を行った常木康弘同社常務はJSCAの副会長。森高氏と常木氏は、同じ業界団体で会長・副会長のコンビを組んでいる間柄だ。それを知っていれば、森高委員のPT会議における「通常の建物よりもワンランク上の耐震安全性が確保されていると私は判断した」という発言は、日建設計を最大限に擁護しているものにしか聞こえないはずだ。

 PT委員の一部や、日建設計の構造計算に異を唱えてPTに呼ばれた建築士は、会議において発言や質問が制限され、深く追求することができなかったことがPTの議事録を読むとよくわかる。建築構造の専門家としてPTに出席している委員が日建設計側と深い関係にあり、日建設計を追及しようとする出席者の意見は封じ込められる。これが結論ありきの『御前会議』の実態である。

 今回、築地市場の仲卸業者の方たちが提訴した通り、豊洲市場水産仲卸売場棟は建築基準法令に違反した設計となっている。訴状に記載された建築基準法令違反以外にも、「層間変形角」や「杭耐力」の問題も指摘されている。これらの問題も、今後、本訴において追及されていくと思われる。このような「違法」「偽装」まみれの設計に関して、日建設計が「法令を遵守」と記載していることも、また、虚偽の上塗りとなっている。

 今回の裁判と並行して申し立てられた「仮の使用禁止義務付け」が認められれば、豊洲への移転が止まり、東京都にも市場関係者にも新たな損害が発生する。しかし、仲卸業者・大卸など市場関係者と東京都の間で、違法建築物である豊洲市場の使用許可や賃貸借契約を締結することなどは、法的に認められないのである。

 違法建築物の使用許可を与えれば、東京都は、市場関係者から訴えられることにもなろう。そういう意味では、豊洲新市場への移転・開場より前に、仲卸業者が提訴したことは、被害を最小限に抑えられる意味で大いに価値がある。仲卸業者のなかには、移転推進派も移転反対派もいるが、そもそも、豊洲市場の建物が違法建築物なので、推進も反対も関係ない。

 この日本では、違法建築物の使用はできないのである。

 豊洲市場の所有者である東京都は、同時に、建築行政を司る特定行政庁でもある。建築基準法第9条は、特定行政庁が違法建築物に対して是正を命じることを定めている。(所有者が行政であれば「要請」)

 違法建築物の是正を命じる立場にある東京都が、違法建築物の使用を許可することは、法的に不可能である。築地市場の跡地は、東京オリンピックの駐車場に利用された後、大規模な再開発が予定されている。銀座に近い、首都東京の超一等地の大規模な再開発には、海外のファンドも名乗りを上げており、築地再開発が頓挫すれば外交問題にまで発展しかねない。

 そして、あろうことか、築地再開発の基本計画は日建設計に委託されているのである。豊洲市場の設計では、12億円もの設計料を手にしながら違法建築物を設計した日建設計は、今度は築地市場跡地の大型再開発においても甘い汁を吸い尽くそうとしている。

 日建設計の設計偽装により、東京都は非常に苦しい立場に追い込まれている。豊洲市場を所有・管理する東京都は、日建設計による違法行為の被害者でもあるので、日建設計に対し、12億円の設計料の返還と損害賠償を請求すべきである。東京都も東京都民も、日建設計の暴挙を決して許してはならない。

 以下に、今回の訴訟における東京都および小池百合子都知事の立ち位置を示したフロー図を添付する。

クリックで拡大
 

関連記事