2024年04月19日( 金 )

大手ゼネコンからの信頼も厚い老舗企業 専門工事業の地位向上にも取り組む(後)

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(株)スギヤマ

業界の意見を汲み取る役目も

 このように数々の実績を積み重ねている同社ではあるが、改善すべき課題はあった。福利厚生の充実だ。宿舎はあったが、時代に合わないものだったことから、助成金を活用し、社宅を建設。独身寮も開設、大分県九重町には保養所があり、労働環境を充実させた。さらに、日給制を採用していた会社も多い業界だったなか、月給制度を創設。日給制では現場が休みになれば収入が減っていたが、従業員に安定した収入を確保させるために月給制に踏み切った。長期休暇の際に代休を取得するかたちにはなるが、週休二日制を敷く。杉山会長が入社した当時に、驚きとともに感じたのは、東京と地方での職人に対する待遇の違いだった。その差を埋めるべく奔走した時代が、同社の基盤形成に大きく関わっている。
 取引先からの評価に信用の高さが表れる。ある大手ゼネコンの現場では、スギヤマの職長が全国の推奨モデルとしてポスターに採用された。また別のゼネコンでは、専門工事業者として施工管理コンテストで選出され、全国大会でも優秀な成績を収めている。また、業歴と会長の人柄が評価され、10年前から(一社)福岡県建設専門工事業団体(連)の会長を務めている。建設就業者の人材育成、待遇と労働環境の改善を目的とした団体で、組織として意見を述べ、職人の社会保障、待遇を保証しようというものだ。今でも杉山会長が思い出すのは、10年以上前にスーパーゼネコンに出した要望書を改めて見直したときの衝撃だ。当時、新たに提出した要望書とまったく同じ内容だった。それだけ建設業界、とくに専門工事業では、待遇改善が進んでいなかったのだ。定期的な会合、国交省との意見交換を重ねるなど地道な活動が続いた。そうするうちに事態は少しずつ変化していき、国交省が専門工事業に対して配慮するように、元請に要求するようになってきた。
 専門工事業界の地位向上に尽力する杉山会長。通常なら、自社あってのビジネス人生だと捉えがちだが、会長は違う。「業界がよくならないと、自社も良くならない」。これが持論だ。そのため、同業者に新入社員がたくさん入れば自社のことのようにうれしいし、「自分たちも頑張らないと」と奮起するという。
 同社に営業マンはいない。ゼネコンには名義人制度があり、協力業者に声がかかる。同じ仲間同士で仕事を取り合うようなことは望まない。「経営が苦しい業者がいれば、それを蹴落とすのではなく、優先的に仕事を取らせて、その下でバックアップするというかたちも取れる。それはお互いさまだ」(杉山会長)。

ものづくりの原点が魅力

 定期的に工業高校へ出向き、専門工事業の魅力を伝えている。建築科、土木科で学んでも、勉強の内容は元請の管理がメイン。専門工事の内容さえ知らない学生がほとんどだという。そんな状況下で人材を確保するのは、並大抵なことではない。それでも訪問を重ねる過程で、興味をもつ高校生が現れ、自分も挑戦してみたいと門を叩く若者がいる。そして、その後輩が先輩を追いかけるように、入社するケースも珍しくない。「有名な建築物を手がけることになれば、一生自分のなかに誇りが生まれる。ものづくりの原点は、やはりこの思いだと思う」(杉山会長)。
 創業者の時代は「とび」だけだったため、取り組むべき課題はいくらでもあった。今や社宅の完備や給与制度の確立など社内体制がずいぶん整い、ある程度成熟した組織になった。今後の課題は業務にITを取り入れること、ドローンを飛ばしての測量、重機を無人でリモコン操作するなど新しい技術を取り入れることなどだ。ただ、いくら改革や技術革新が進んでも、人の重要性は変わらない。かつての新入社員は先輩の技を見て盗むことが必要だった。今は現場で先輩が積極的に育成しているため、人材の成長速度は過去よりも数段上がっている。同社では、職長1人に対し、2人の新人を加え、チームで指導するようにしている。職長と一対一では、同じ悩みをもつ同期がいないため、行き詰まってしまいがちだ。新人2人を組み合わせることで、時には競争相手に、時には相談相手になるよう、配慮している。同社のとび職人のなかには、なんと一級建築士の資格保有者もいる。自社でやろうと思えば、元請として住宅事業もできる態勢にある。創業以来業容を拡大してきたように、今後も時代に応じた建設業を目指すとともに、九州の専門工事業の地位向上を担っていく。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:杉山 英治
所在地:福岡市東区多の津4-5-13
設 立:1962年4月
資本金:2,000万円
TEL:092-611-0200
URL:http://www.sugiyama-g.co.jp

<プロフィール>
杉山 秀彦(すぎやま・ひでひこ)

 佐賀県生まれの73歳。大学進学で上京。1970年に(株)杉山組(現・(株)スギヤマ)に入社。79年、34歳で代表取締役に就任。2010年に代表交代し、会長へ。専門工事業の地位向上、待遇改善のため、複数の公職リーダーとしても活躍している。

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