2024年04月20日( 土 )

「神宿る島」をめぐる攻防、地元漁協vs釣りファン~沖ノ島

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 昨年7月に世界文化遺産に登録された「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。その中心資産である沖ノ島は、神職以外の立入が禁止された女人禁制の「神宿る島」以外に「釣りの聖地」という側面がある。世界文化遺産登録をきっかけに、この島をめぐる地元漁協と釣りファンとの攻防が激しくなりそうだ。

 福岡県の担当課(世界遺産登録推進室)によると、問題視されているのは、沖ノ島沿岸の岩場や岩礁に設置された杭や柵などの工作物。地元自治体の宗像市による現地調査では、最大約1mの杭が計13カ所22本設置され、柵と鎖が設置された場所が2カ所あったという。これらは、釣り人やクーラーボックスなどの所有物の転落防止が目的であり、また、このほか、釣り人がイシダイなど大物の魚を釣る際に、竿を固定するための杭を各々設置することもあるという。

 これらの工作物は、世界文化遺産登録前から存在していた。沖ノ島周辺は、イシダイ以外の魚種も釣れる絶好のスポット。ネット上でも、沖ノ島で釣った大物を手にする釣りファンの画像は珍しくはない。しかし、一方で、沖ノ島周辺を漁場とする地元漁協にとっては好ましく思われていないようだ。

 前出の県担当課によると、世界文化遺産登録の際、島への上陸や見学などを目的とした船舶の接近を危惧する地元漁協の声を受け、史跡の範囲が島の中心から半径2キロまで拡大された。これにより、釣り人関連の工作物が史跡の一部となったという。

 さらに今年5月、地元漁協からの指摘を受けて7月下旬に宗像市が現地調査を実施。現状を公表し、マスコミで報道された。今後は県や市、宗像大社で構成する保存活用協議会を通して、撤去費用の見積もりをふまえて対応を検討していく方針だ。世界文化遺産は、景観の維持が義務付けられている。ドイツのドレスデン・エルベ渓谷は、住民投票で建設を決めた橋を新たに架けたため、2009年に登録を抹消された。

 沖ノ島自体は宗像大社の私有地であり、信仰上、神職以外の立入が禁止されている場所である。ただし、岩場や岩礁は土地登記の範囲外であり、撤去に関する法的な根拠はないという。また、問題の工作物は移動が困難な場所にあり、撤去した場合、釣り人の事故につながる恐れもある。

 釣りファンからは、「問題の杭などは世界遺産登録後ではなく、30年以上も前からあった。『釣りの聖地』として長い歴史があった場所であり、なくなるのは非常に残念」「神主1人しかいない沖ノ島で、盗難やイタズラが行われなかったのは釣り人が『水際の監視人』としての役割をはたしてきたからではないか」といった指摘があがる。「神宿る島」の恩恵の1つが、世界文化遺産登録とともに失われようとしている。

【山下 康太】

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