2024年04月25日( 木 )

光を当てるだけで防汚・殺菌・抗カビが実現、汎用性の高い『夢』の光触媒材料開発(前)

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(国)九州工業大学 理事・副学長 横野 照尚 氏

 ただ光を当てるだけで、防汚や殺菌、抗カビなどの優れた効果を発揮する「光触媒」。これまでは紫外線を必要とする特性から、主に屋外での用途に限定されていたが、さまざまな研究開発が重ねられた結果、ついに屋内の可視光での反応を可能とし、用途範囲の劇的な拡大に成功した。今回、その「可視光応答型酸化チタン光触媒」などの研究開発に携わってきた、(国)九州工業大学の理事・副学長の横野照尚(おうの・てるひさ)氏に話を聞いた。

優れた防汚・殺菌作用により世界中で利用される光触媒

▲(国)九州工業大学 横野 照尚 理事・副学長

 「我々の研究室で研究している内容は、大きく分けると3つ。1つ目は、室内光で殺菌・抗菌・抗カビ機能を発揮する光触媒ナノ材料および塗料の開発。2つ目は、CO2資源化用の光触媒ナノ材料の開発。そして3つ目が、選択的有機合成反応を可能にする光薄膜電極システムの開発です」と話すのは、長年にわたって光触媒の研究開発に携わってきた九州工業大学の理事・副学長の横野照尚氏。

 「光触媒」とは文字通り、光を照射することによって触媒作用を示す物質のこと。その代表的な光触媒活性物質としては、「酸化チタン」(TiO2)が知られている。1967年に発見され、72年に発表された光電効果「本多-藤嶋効果」では、水中に入れた酸化チタンと白金とを電極として用い、酸化チタン電極に紫外線を当てることで水が分解され、酸化チタン電極からは酸素が、白金側からは水素が発生するとともに、両電極間に電流が生じるというものだった。この発見は当初、「夢のエネルギー源」として注目を集めたものの、エネルギー源としての実用化は容易ではなく、その後、光触媒の超親水性や酸化還元作用を生かした研究にシフトしていくことになった。

 この酸化チタンを用いた従来の光触媒材料では、強力な酸化力による殺菌・分解作用を発揮することや、親水性をもつことを特徴としており、その2つの性質により、さまざまな場面・用途で使用されている。たとえば、親水性を生かした防汚タイルのほか、水滴が付かない車のミラー、高速道路のトンネル内の照明器具への防汚加工など。膜面に汚れが付着しにくいうえ、付いた汚れも落ちやすいセルフクリーニング機能を備えており、多大な効果を発揮している。また、酸化力を生かし、舗装表面に特殊セメント系光触媒層を固定することで、太陽光(紫外線)を利用して大気汚染の原因物質とされるNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)を分解する「光触媒舗装道路」も実用化に至っている。とくにイタリアでは、「イタルセメンティ社」という会社を立ち上げて国家プロジェクトとして取り組み、実にNOxの60%削減にも成功しているという。

 ほかにも、中部国際空港「セントレア」や「虎ノ門ヒルズ」「六本木ヒルズ」などの大型施設・ビルに汚れを分解する光触媒ガラスが用いられるほか、ここ福岡では「ヤフオクドーム」の外壁や北九州空港のガラスなどにも光触媒コーティングが採用。さらに海外に目を向けると、ルーブル美術館(フランス)やソニーセンター(ドイツ)、ミレニアムドーム(イギリス)、コロンバスセンター(アメリカ)、上海万博のテント類など、数々の著名な建造物で採用されている。

(つづく)
【坂田 憲治】
 

(後)

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