2024年04月19日( 金 )

国土交通省が進めるi-Conは地域建設業にとって救世主となるか?

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 国土交通省は、2016年度から、建設業の生産性向上などを目的に建設プロセスでICTなどを活用する「i-Construction(以下、i-Con)」を進めている。ICT土工分野では、これまでに全国1,278件(18年2月時点)の施工実績がある。そのうち、九州管内の実績は257件で、全国の約2割を占める。ICT導入による省力化や効率化は、人手不足の地域建設業にとって、朗報となり得る可能性を秘めているが、導入にかかる投資は、中小零細企業にとって簡単なことではない。導入した企業のなかにも、3億円以下の規模の小さな工事では、採算が取りづらいなどと課題を指摘する声がある。i-Conは、地域建設業にとって、生産性向上の救世主となるのか。

将来の労働力不足をICTによる生産性向上で補う狙い

 i-Conには、生産性の向上により、労働力不足を補う狙いがある。背景には、政府が進める「働き方改革」がある。九州で建設業に携わる労働者数は約54万人。このうち50歳以上の労働者は約27万人で半数を占める。一方、29歳以下は1割程度にとどまっており、将来的な労働力不足が指摘されている。トンネル工事の分野では、矢板工法からNATM工法に移行したことにより、生産性が10倍に向上した実績がある。ICT導入による同等の効果を、昔と生産性がほとんど変わっていない土工(切土、盛土などの工事)、コンクリート工などの分野に求めたわけだ。

 ICT土工とは、測量・調査、設計、施工、検査などすべてのプロセスにICTを活用することを指す。従来の土工は、測量士が現況地形を測量し、そのデータを基に設計図から土量を算出。丁張り(杭など用いた勾配角度の表示方法)を行い、オペレーターが重機で施工した後、書類を検査するという流れが一般的だ。

 これに対し、ICT土工ではドローンなどで3次元測量を行う。パソコン上で、3次元測量データによる現状地形と設計図の差分から土量を自動算出した後、3次元設計データなどをインプットしたICT重機で施工(IoT施工)。検査書類の提出は不要という流れになる。従来施工との違いは、測量・設計のプロセスを1~2人のオペレーターで完結できるようになる点と、重機施工の人員を3分の1程度まで減らすことができる点だ。工期的にも短縮効果を見込める。人手が減らせ、工期も短くなれば、コストが減らせ、最終的に施工業者の利益が増える。i-Con導入は、良いことずくめのように見える。

「国がいうから仕方なく」今後、真価が問われるi-Con

 ただ、中小零細が多い地域建設業者のなかで、ICTを積極的に使いこなし、メリットを享受している企業は、そう多くはないのが現状だ。その理由は、「現在の人員、従来のやり方でも、今のところ仕事を回していける」と考えているからだ。経営者や技術者にとって、ICT導入が不要不急である以上、「ちょっと様子を見よう」と考えるのは当然のことだ。

 ICTのメリットを期待してI投資を行った企業のなかにも、不満を抱える企業がある。たとえば、3次元測量や設計を行うための機材を購入しても、誰でもが、すぐにそれを使いこなせるわけではない。ICTにも人材確保が必要になる。小規模な工事で単発的にICTを活用しても、利益が出せない、赤字になるという問題もある。

 業者サイドのなかには、ICTの導入は「国がいうから、仕方なくやっている」という「やらされ感」がある建設会社も少なくない。受注者はもちろん、同じ発注者である県や市町村と比べても、国との間には少なからず温度差があることも、i-Conの推進力を削ぐ要因になっている。

 i-Conスタートから2年が経過。石井啓一国土交通大臣は、今年を「生産性革命の深化の年」と位置づけている。「深化」がどのような状態を指すか定かではないが、政府が「働き方改革」を進めるなか、長時間労働などネガティブなイメージがある地域建設業の働き方改革をアピールするには、ICT以外の手立てがない現状がある。今後、いまだ道半ばにあるi-Conの「真価」が問われる。

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【大石 恭正】

【鹿児島県の野添土木 沖縄県の丸政工務店が優秀賞受賞】
 国土交通省は、i-Con推進のため、2017年度に「i-Con大賞」を創設している。完成直轄工事が表彰の対象。17年度の国土交通大臣賞は、北海道の(株)砂子組(道央圏連絡道路千歳市泉郷改良工事)、島根県のカナツ技建工業(株)(多伎朝山道路小田地区改良第12工事)が受賞。優秀賞は10社で、九州からは鹿児島県の(株)野添土木(長谷川4号床固工・右岸導流堤工事)、沖縄県の(株)丸政工務店(恩納南BP1工区改良工事)が受賞した。

【宮崎で西松建設 熊本でコマツが新技術を現場試行】
 産官学連携による「i-Con推進コンソーシアム」も設立。最新技術の現場導入のための新技術発掘、3次元データ利活用促進のためのデータ標準やオープンデータ化などに取り組んでいる。今年5月には、新技術と現場試行のマッチング案件11件を決定。九州では、センサBoxのみによる傾斜監視システムを用いた「斜面の安定性を確認する技術」(ニーズ提供者・宮崎河川国道事務所、シーズ提供者・西松建設)、IoTでダンプトラックの運用を管理する「建設現場における建機などの動態管理技術」(ニーズ提供者・菊池川河川事務所、シーズ提供者・(株)小松製作所)が成立している。
 

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