2024年04月24日( 水 )

北九州市が描く「守り」と「攻め」のインフラ投資とは?

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北九州市副市長 今永 博 氏

 今年4月、北九州市の今永博副市長が再任した。今永氏は市職員として建設局長などを歴任した後、2014年4月に同市3人目の副市長に就任。インフラ関係部局を所管するとともに、公共施設の統廃合を含む、公共施設マネジメントの特命を受けた。同市は公共建築物の老朽化などにともなう大規模改修や更新の費用を今後40年間、現在の水準並みの年平均179億円に抑えながら、施設の安全を確保する「守りの投資」を行っていく方針だ。
 その一方、産業振興などを目的に、国道3号黒崎バイパス、戸畑枝光線などの新たな「攻めの投資」にも着手。下関北九州道路の早期実現や北九州空港への鉄道アクセスなども視野に入れる。今永氏自身、市職員として戸畑枝光線の計画などに携わった経験があり、同市のまちづくりに対する思い入れは強い。土木出身の同氏のまちづくり哲学などについて聞いた。

インフラ更新投資を年間179億円に抑制

 ――7月5日からの豪雨による北九州市の被災状況はいかがでしたか?

▲北九州市副市長 今永 博 氏

 今永 まず始めに、7月5日からの豪雨において、犠牲になられた方のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆さまにお悔やみ申し上げるとともに、被災された皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。

 7月5日からの豪雨では、西日本を中心に記録的な大雨となり、甚大な被害が発生しました。本市においても、土砂崩れにより2名の尊い命が失われ、自然災害の脅威を改めて感じた次第です。また、今回の豪雨では、河川の護岸や道路の法面が崩壊するなど、多くのインフラ施設が被災している状況です。現在、一刻も早い復旧に向け、全力で取り組んでいます。

 ――特命事項として、公共施設マネジメントを推進する目的は?

 今永 公共建築物を主とする北九州市の公共施設の市民1人あたりの保有面積は政令市のなかで最大で、政令市平均の1.5倍。これは、本市が1963(昭和38)年の五市対等合併で誕生して以降、主に70年代から80年代を中心に、旧五市の均衡を図りながら、公共施設の整備を着々と進めてきたところによります。

 行財政改革の一環として、公共施設の統廃合や施設の長寿命化、更新費用の平準化などに取り組む「公共施設マネジメント実行計画」づくりを任されました。

 また、道路や上下水道などの社会インフラについても、これまでの「建設」・「整備」する時代から、今後は「賢く使い」・「維持する」時代へとシフトしていきます。都市の発展や市民の安全性・快適性を確保し、社会インフラを最適に維持するため、「北九州市公共施設マネジメント基本計画(社会インフラ版)」の策定も行いました。

 ――マネジメントの内容は?

 今永 2013年の公共施設をそのまま保有した場合、40年間で1兆2,040億円の更新投資が必要と試算されました。年平均301億円の計算になりますが、実際の更新にかかる投資額は年平均約180億円にとどまっており、施設のダウンサイジングは不可避でした。そこで、1期目に策定した「北九州市公共施設マネジメント実行計画」では、施設の廃止や集約、複合化や多機能化、更新時の規模の見直しなどにより、施設量の総量抑制に取り組むことにしました。40年後の施設保有量を、現在より約20%縮減する目標指標も掲げています。

 さらに、民間施設・ノウハウの活用、施設の利用形態の見直し、長寿命化や年度ごとの更新費用の平準化、利用料金の見直しなどを実施することで財政負担を軽減し、年間の更新投資額を約179億円に抑える計画としました。

 道路、上下水道などの社会インフラについては、対処療法などによる「事後保全型」の維持管理で試算を行った結果、今後40年間で約2兆2,800億円、年平均約570億円の経費が必要と見込まれます。トータルコストの縮減に向けた「予防保全型」の維持管理を推進することにより、年間の維持管理費の目標を約460億円以下としています。
 20年度までに、各分類の個別施設計画を策定する予定です。

 ――計画づくりは一段落したのでしょうか?

 今永 結果が出るのはこれからです。計画通りの費用で収まるか、検討する必要があります。資材単価などが上昇すれば、計画を見直す必要がありますから。また、人材確保も課題です。新規につくる人材はいますが、維持補修する人間をどう育てるかも、これからの取り組み次第。最終的には、コンパクトシティに向け、公共インフラをダウンサイジングする必要があります。たとえば、上下水道はこれまでずっと拡大させてきましたが、今後は施設などの縮小・集約を行っていくなどです。

都市高環状線を実現、渋滞緩和、産業振興へ

 ――主な新規事業は?

 今永 国直轄の自動車専用道路である国道3号黒崎バイパスです。渋滞緩和が目的ですが、沿線への企業立地による産業振興も担っています。都市計画道路の高規格道路の戸畑枝光線もあります。

 ――戸畑枝光線は市道として整備しています。通行料は無料と聞いていますが…。

 今永 当初の事業主体は福岡北九州高速道路公社でしたが、走行時間の短縮とともに、市街地や周辺地域での交通渋滞の緩和、都市高速4号線大谷~紫川間の災害時での代替ルートの確保などを図り、災害に強く、環境に優しいコンパクトなまちづくりを進めるため、市が直接整備することによって、早期に事業効果を出現させることにしました。そのため、街路事業を活用し、市道として整備していきます。

 ――市単独でも整備する姿勢に、強い意志を感じます。

 今永 北九州都市高速4号線は、市の東西を結ぶ大動脈。ですが、山際を走るこの道は、雪や大雨による災害などで不通になった場合、市全体の交通がマヒするリスクがあります。環状線ができれば、不通になっても、交通ルートは確保できます。強靭な交通インフラは、市民生活の利便性、産業振興に不可欠なのです。

 ――下関北九州道路の構想もあるようですが・・・。

 今永 福岡県、山口県、北九州市、下関市の2県2市、各議員連盟、経済界と連携して取り組んでいます。92年ごろから国による調査検討が行われていましたが、08年に一度凍結されました。その後も引き続き、災害時のリダンダンシー確保、老朽化対策を図るとともに、海峡を挟んだ2県2市の一元的な発展を図る道路として、国に対して必要性を訴えてきました。

 ――国の対応は?

 今永 17年度からは、国の道路調査費補助を受け、構造、ルート、事業手法について基礎的検討を行いました。今年度も、補助を活用して昨年度の調査検討で課題になっている項目についての深掘りの調査を行います。この成果を、国の計画段階評価につなげていきたい。

 ――北九州空港への鉄道アクセスの検討については?

 今永 現在、北九州空港は、東京、名古屋に加え、季節運航の那覇線が就航しており、国際線は中国・大連と韓国・釜山、仁川、また本年5月からは襄陽(ヤンヤン)、務安(ムアン)へと路線も増え、さらに、10月からは台北線も就航予定です。17年の利用者数は164万人と、過去最高を記録しました。

 24時間空港の特長を生かし、深夜の貨物便の就航も開始しました。北九州空港の活性化、また、混雑する福岡空港の補完のためにも、国に対して、現在2,500mの滑走路の3,000m化についての要望を続けています。

 さらなる北九州空港の発展については、鉄道アクセスの検討が不可欠。採算性の見通しが立たず、進めていた検討を休止しましたが、利用者数200万人も視野に入ってきたため、改めて検討を始めていく必要性が出てきています。

 ――洋上風力発電事業に取り組んでいるとのことですが、進捗状況は?

 今永 響灘の臨界部には、約2,000haの埋立地があります。この響灘地区の優位性を生かし、風力発電関連産業の総合拠点の形成などを目指す「グリーンエネルギーポートひびき」事業を推進しています。その取り組みの1つが、5MW級の場合、最大44基の洋上風力発電を設置する響灘洋上ウインドファーム事業です。事業者はひびきウインドエナジー(九電みらいエナジー(株)、(株)九電工、電源開発(株)、(株)北拓、西部瓦斯(株))で、総事業費1,750億円を見込む非常に大きなプロジェクトとなっています。

 この事業を契機に、風車の積出機能、風力発電に関する産業集積機能、製品の輸/移出入機能のそろう総合拠点の形成を目指しています。

新たな公務員技術者像も模索中

 ――技術職員に求めるのは、「ゼネラリスト」ですか、「スペシャリスト」ですか?

 今永 私の職員時代、約40年前になりますが、技術職員は個々の専門知識を磨いて仕事をしっかりと遂行すること―いわゆる「スペシャリスト」として育てることが求められていました。

 しかし、市民のニーズが多様化するなど自治体をとりまく環境が複雑多様化するとともに、それまでの専門の知識だけでは対応が難しくなってきました。技術職員にも、専門知識に加えて、仕事に関連する周辺のことについても幅広い知識が求められるようになっています。今に続く「ゼネラリスト」が求められる時代を迎えたのです。

 今、自治体職員は新たな課題に直面しています。今後、多くのベテラン職員が退職を迎えますが、技術者集団としての技術力を次の若い世代にしっかりと伝えることが重要です。さらに、日々進歩する技術を習得させることも重要ですし、市民のニーズもますます変化すると考えています。

 まずは、若手職員にさまざまな経験の場を与えたいと思いますが、そこでは、自ら学ぶ職員、職員を育てる職場の実現が鍵を握っています。人材は、自治体が努力すれば着実に価値を高めることができる、重要な資源です。

【大石 恭正】

<プロフィール>
今永 博(いまなが・ひろし)

広島大学卒業後、1978年、土木職として北九州市役所入り。2009年、小倉南区長、10年、建築都市局長、11年、環境局長、13年、建設局長を経て、14年に北九州市副市長に就任。現在2期目。

災害にはハード・ソフト両面での対応が不可欠 北九州市職員が語る豪雨災害の教訓

▲小倉南区を流れる吉田川の被災状況(北九州市提供)
崩壊した護岸ブロックが豪雨の激しさを物語っている

 7月5日からの豪雨により、北九州市建設局所管のインフラは、河川、道路、公園で合計118カ所(2018年7月末時点)の被害が発生した。うち被害規模が大きく、国土交通省の災害査定を受けるものは約40カ所に上る。最も多くの査定を受けるのが河川施設(護岸崩壊など)20カ所で、その大半が市東部(門司区、小倉北区、小倉南区)に集中している。

 今回の豪雨では、河川の流量が増加し、流れる水の速度も上昇。水流によって川底の土が削られ、河川の護岸ブロックを支える基礎部分が洗掘されたため、護岸ブロックが崩壊し、河川に隣接する道路が陥没するなどの被害が発生した。このほかにも、21の河川で水が溢れ、浸水被害が発生している。

 崩壊した護岸ブロックや道路陥没などの応急復旧工事は、各区役所のまちづくり整備課が担当。各被災現場には、事前に取り決めてあった業者に対応を依頼。土のう設置などの作業を行った。河川については、8月中旬までに応急復旧作業が完了した。

▲応急復旧後の吉田川

 同市内には一級河川の遠賀川のほか、紫川などの二級河川や、そのほか中小河川が流れており、その総数は約260。一級河川は国土交通大臣、二級河川は県知事が管理しており、同市は、それ以外の比較的小規模な準用河川と普通河川、合計約230河川を管理している。市内を流れる遠賀川や紫川、撥川など比較的大きな河川は、中長期の河川改修の基本方針や整備計画を策定。市が管理する小規模河川については、日常管理は実施しているが、改修の計画は策定されていない。過去に水が溢れるなど浸水被害が発生した箇所を改修しているのが現状だ。

 門司区を流れる相割川は、河川改修の計画を策定しているが、未改修の中流部の護岸が崩壊するなど、周辺の住宅地が浸水被害を受けた。現地調査した同市担当者によれば、「被災現場の下流は14年度まで護岸の改修を実施していたこともあって、川から水が溢れることによる浸水被害はなかった」という。

 今回被災した場所も、改修されていれば被害を免れた可能性はある。しかし、河川改修は、川の断面積が上流よりも下流が狭い場合、その箇所から水が溢れてしまうため、基本的に下流から改修を行っていく。また、インフラ整備には、時間と費用を要するため、浸水被害の実績や規模などから優先度を確認したうえで、上下流の流量バランスを考慮して、改修に着手しているというのが現状だ。このため、今回のような豪雨を想定し、すべての箇所でインフラ整備を行うことは、実際には極めて困難な状況にある。

 同市は現在、被災箇所の本格復旧に向け、9月末から始まる国の災害査定のための現地調査や設計などの作業に追われている。査定後、10月中をメドにすべての復旧工事を発注。河川については、来年の出水期(6月ごろ)までに工事完了したい考えだ。

 同市担当者は、「昨年の九州北部豪雨に続き、今年も本市を含め西日本の広い範囲で豪雨災害が発生するなど、最近の雨の降り方は、尋常ではない。今回の豪雨は、気象庁が50年に1度の異常気象を基準にして発表する『大雨特別警報』が発令されるなど、記録的な大雨だった」などと指摘。災害の教訓として、「行政、市民の雨量の急激な増加に対する認識をさらに高めること」を挙げた。そのうえで、ハード整備は長い期間を要することから、「被害の軽減には、行政によるハード整備に加え、住民の避難態勢の強化などソフト面の充実が重要だ」と話している。

【大石 恭正】

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