2024年03月29日( 金 )

がん免疫治療薬「オプジーボ」は何が画期性なのか~本庶佑教授がノーベル賞を受賞

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▲小野薬品工業のHPより

 日本人の3人に1人が亡くなる原因と言われているがん。これまでのがんの治療といえば、手術や放射線治療のほか、抗がん剤による化学療法などが中心だった。2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授の研究成果から生まれた小野薬品工業(株)のがん免疫治療薬「オプジーボ」は、今までになかったがん治療薬といわれるが、従来のがん治療と比べると、どのようなところが画期的なのだろうか。

 これまでのがん治療は、がん細胞を破壊してがん細胞が増えることを防ぐか、がん細胞そのものに直接働きかける治療が主流だった。がん免疫治療薬「オプジーボ」が登場するまでは、免疫療法で、がんの治療効果を上げた例は少なく、世界のほとんどの専門家は免疫療法で、がんが治るとは考えていなかったそうだ。

 がん免疫療法とは本来誰もがもっている体の免疫の力を使って、がんを治療する方法だ。免疫は体内の異物を見分けて、異物を体から取り除く仕組みだ。たとえば、ウイルスに感染して風邪を引いたときに、ウイルスを攻撃して風邪を治そうとするのが免疫の力だ。そのため体には、がん細胞を異物として見分けて、がんを取り除く免疫の仕組みが備わっている。実は私たちの体では毎日がん細胞が生まれているが、健康でいられるのは、免疫ががん細胞をチェックして取り除いてくれているからだ。では、なぜ体のなかにがんを取り除く免疫の仕組みがあるにも関わらず、がん細胞が増殖して、がんという病気になるのだろうか。それは、がん細胞が免疫を欺いて、自らを体にとっての異物ではなく、体のなかの組織の一部と判断させ、免疫の攻撃をかわしてしまう仕組みをもっているからだ。

 そこで、今までがんが治るとは考えられていなかった免疫の力を活性化することで、免疫でがんを治療できるのではないかというところに注目したのが、がん免疫治療薬「オプジーボ」の誕生のきっかけになった本庶佑氏のがん免疫研究だ。本庶佑氏は、がんが免疫にとって体のなかの組織の一部とみなされて攻撃を受けないようにする仕組みがPD-1と呼ばれる遺伝子にあることを発見した。「オプジーボ」は、PD-1疎外、免疫チェックポイント阻害薬によりPD-1の免疫を欺く働きを解除して、免疫が正常にがんを攻撃できるようにして、体が本来持っている免疫の力でがんを治療する薬だ。

 免疫を活性化させてがんを治療する新しいタイプのがん治療薬「オプジーボ」は従来の手術や化学療法などでは治療が難しかった末期がんでも多くの治療効果を上げており、臨床試験では2~3割の患者のがんが縮小、または消滅するという効果が出ている。なお、オプジーボは悪性黒色腫(メラノーマ)、肺がんや胃がんなど数種のがんの治療薬として承認を受けているが、ほとんどのがん細胞に有効と考えられており、食道がんや肝細胞がんなどの適用に向けて治験が進んでいる。

 また、通常の化学療法などの抗がん剤は投与を続けている間に効果があるものだが、「オプジーボ」は投与時だけではなく、投与をやめた後も免疫が働いて長期的に効果が持続する事例があることも画期的な点といえる。がんの治療では、がんを治療した後にどれだけ長く生きられるかという5年生存率が注目されることが多い。たとえば、肺がん患者のうち80%以上を占める非小細胞肺がんでは、これまで進行期の患者の5年生存率は5%に満たないと言われてきた。2017年の米国がん学会で発表された進行期の非小細胞肺がん患者への「オプジーボ」の臨床試験では、5年生存率が16%に達したという報告があり、「オプジーボ」はがんに対して長期的な治療効果が期待できると考えられる。

 今までになかったがん免疫治療薬「オプジーボ」の登場により、これまで治療の難しかった末期がんでも長期的な治療効果のある事例や完治する事例が生まれた。免疫を活性化させる方法により、ほとんどの専門家に、がんを治すのは難しいと考えていた免疫治療の新たな道を切り拓いたのが「オプジーボ」といえる。

【石井 ゆかり】

<プロフィール>
石井 ゆかり

みどりの宇宙(株) 経営コンサルタント。筑波大学卒業。京都大学農学研究科修士課程修了。ヘルスケア関連メーカーに勤務後、人の健康と企業の発展に貢献したいという想いから、経営コンサルタントとして中小企業の経営支援を行っている

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