2024年04月20日( 土 )

世の中に絶望しなければならない事態はない。困難な状況を楽しめ!(4)

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吉野家ホールディングス 会長
CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合 特別顧問
安部 修仁 氏

変化はチャンス、状況を楽しめ

 ――ちょっと視点を変えて、現代的な経営において影響の大きい社会変容といえばITの進化ということになると思います。IoT、ビッグデータ、AIといったテクノロジーがもたらす影響を、経営的視点から見てどのようにご覧になっていますか。

▲安部 修仁 氏

 安部 世の中がずいぶん便利になっていくことは間違いないですね。いつの時代も、道具立てとしての進化が起こることで、今までとまったく違うことが現象として起こってくるのは明らかです。具体的にどんな変化が起こるか、どこにどのようなチャンスが生まれるか、いまはわかりませんが、1つだけいえることは、すべての人や会社に等しくチャンスがあるということです。
 つまり、資本をもっている者が有利で、インフラをもっている者が有利といった、今まで当たり前と思っていた状況が崩れるということです。今は想像さえできない分野で新しく勃興する産業分野があるだろうし、企業のカテゴリーや、垣根もなくなるでしょう。これは、社会に大きな変容をもたらす可能性があります。
 なにせ今、世界で最も裕福な8人が保有する資産は、世界人口のうち経済的に恵まれない下から半分にあたる約36億人が保有する資産に相当するという状況だそうです。この富の偏在は異常です。この行き過ぎた資本主義の状況も、もう少し適応なバランスに変わって然るべきでしょう。

 ――社会が今後どのように変化するか予断を許しませんが、いずれにしても、企業としてやっていくことに、そう大きく変わりはない。目の前のお客さんに対して全力でサービスをしつつ、自分の目指している方向性を愚直に求めていくことに尽きると思うのですが。

 安部 私もそう思います。ただ、マーケットは変わっていくし、供給サイドも変わっていかなければなりません。そのなかで、できるだけコストを抑えつつ、かつ、供給する商品やサービスの質は落とさないという基本は同じで、取りも直さず生産性をどう高めるかということが企業の永遠の課題というわけです。
 そういった意味でいうと、では世の中がどう変わっていくのか、というのを常にサーチしていくことが求められます。ベースとしては、長期トレンドで30年、中期で10年、直近で1、2年というマーケットの変化をしっかりウォッチし続けるということでしょうね。
 これは決して大変なことではなく、本当は面白いことだと私は思うのです。予測した結果、的中することもあれば外れることもあるけれど、ゲームみたいなものです。スポーツの試合でも負ければ悔しいけど、ゲームそのものは楽しいはずで、負けたら、それを教訓にまたチャレンジすればいい。その道程が楽しいと思えず、今日を生きるだけで毎日つらくてしかたがないのであれば、辞めてしまえばいい。経営者の代わりはいくらでもいると思っています。悲観しているひまがあるなら、懸命に臨む未来に挑戦していた方が、よほどハッピーなことです。

(了)
【聞き手・文・構成:太田 聡】

<プロフィール>
安部 修仁(あべ・しゅうじ)

1949年福岡県生まれ。プロのミュージシャンを目指して上京。生計を立てるためにアルバイトとして入った吉野家で、当時の松田瑞穂社長に見出されて72年正社員に登用。九州地区本部長、営業部長、取締役開発部長を経て、86年子会社取締役に就任。その後も吉野家ディー・アンド・シー常務、同専務を経て92年に代表取締役社長就任。2007年には改組にともない吉野家ホールディングス社長に就任。社員時代の83年に倒産から再建までの苦難の道のりを経験。経営者になってからは、BSE問題やライバルとの牛丼戦争に直面し、社員の先頭に立って戦い抜く。2014年5月、会長職に就任したのを機に経営の一線から退き、後進の指導に専念。現在は、CRCの特別顧問を兼務する。

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