2024年04月20日( 土 )

KYBデータ改ざんと豊洲市場との共通点とは?

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 KYBによる免震・制震ダンパーのデータ改竄に関する報道が続いている。東京スカイツリーなど不特定多数の人が集まる施設にも使われているので、早急な対策が必要であり、国土交通省は、KYBに対し、早急に製品を交換するように指示をすると同時に、ほかのメーカーにも調査を要請した。
 今回のKYBによるデータ改竄は内部告発により発覚しており、ほかのメーカーでも同様の改竄が行われていなかったのかという懸念が出るのは当然である。自動車メーカーの不正の例では、ほとんどのメーカーが不正に手を染めていたので、免震・制震装置のデータ改竄がほかのメーカーにまでおよんでいる可能性は十分に考えられる。
 今後、対象となっている装置を交換するとしても、相当な時間を要すると思われる。以前問題となった東洋ゴムの免震ゴム交換は、3年で対象建物154棟に対して91棟(59%)しか交換が終わっていない。(2018年8月10日現在)

 KYBがデータを改ざんした建物には、東京都庁や五輪関係施設、原発の免震棟など重要な施設が多く含まれている。対象物件の棟数も986棟と、東洋ゴムの対象物件の6倍以上の棟数であり、製品交換が遅々として進まない状況も考えられる。
 首都圏直下型地震発生の可能性が高い(30年以内に70%以上の確率)と国が注意喚起している現在の状況においては、一日も早く適切な製品への交換が必要であるが、メーカーはすべての製品の交換を終えるまでに2年以上要するとコメントしている。はたして五輪施設への対応は間に合うのか? 重要な施設を優先し民間のマンションなどを後回しにすれば人道的な問題となる。巨大地震は明日にも発生するかもしれないのである。
 国交省は、震度7の地震でも安全性に問題はないとコメントしている。そうであるならば、基準そのものに意味がないのではないか?安全性に問題ないとコメントをする根拠も不明であり、何のための基準なのか、はなはだ疑問である。

 「制震」とは、建築設計上の概念であり、建物に入力される地震力を、建物内部の機構により減衰させたり増幅を防いだりすることで、建物の振動を低減させることを指す。目的は同じだが類似の用語の耐震や免震とは区別される。「制振」とも書かれ、日本建築学会では正式に制振を用いているが、言葉の顧客への印象や「耐震」など他の用語との対比のしやすさから民間企業では制震を用いることもある。ただし、地「震」を制するのではなく「振」動を制するという趣旨から、近年では「制振」に統一されつつある。行政が言うところの建物の最終的な安全とは直接的には、結びつくものではない。あくまで、揺れを制御する目的なのである。

 東京都においては、豊洲市場水産仲卸売場棟における構造計算の偽装が発覚しており、仲卸業者が訴訟を起こしている。豊洲市場の構造計算の偽装は、KYBのデータ改ざんと共通している点も多い。日建設計という日本で最大手の設計事務所は、全国の公共工事の設計に関与しており、最大の自治体である東京都との関係は、当然のことながら深いものがあり、計画通知の審査が甘いこと(馴れ合い)が、構造計算偽装の背景にある。審査する側のチェック機能が働いていないので、チェックを受ける側が「これぐらいは偽装しても大丈夫」「前回指摘されなかったから今回も大丈夫だろう」と、偽装が継続していたのである。
 豊洲市場に関しては、仲卸業者の代表が、東京都に対して、水産仲卸売場棟の是正措置を求める訴訟にまで発展している。

 東京都庁などに使用されている製品がデータ改ざんされていた事実について、小池東京都知事は下記のようにコメントしている。
 「都有の施設で7つ、その問題のある製品を使っているということが判明いたしております。(KYBとその子会社には)迅速な対応をお願いしたいと思っています」
 「どう対応するかは報告を受けてこれから考える。安全の問題だからきっちり行われていないと信頼性に関わる」
 このようにコメントしている小池都知事が、こと豊洲市場の構造計算の偽装に関しては、日建設計を擁護する立場に終始している。豊洲市場水産仲卸売場棟は、柱脚の鉄量が規定の半分しかなく、耐震強度を計算する際の係数も不正に偽装されている。このような重大な設計偽装を擁護しておきながら、KYBのデータ改ざんに対しては、「安全の問題だからきっちり行われないと信頼性に関わる」と、同じ行政庁と思えないほど、真逆のコメントをしている。豊洲に関しては、市場が開場した現在、使用禁止や是正措置などの事態になることは、東京都にとって非常に都合が悪いことが理由であり、そこには、安全性や遵法精神などの認識は皆無である。

 豊洲市場と同様の設計の偽装は、福岡県久留米市のマンションにおいても、同じ手口の偽装が、訴訟の争点の1つとなっている。訴訟では、被告である設計事務所からは、技術的な反論がゼロであり、豊洲と共通する設計の瑕疵を消極的ながら、認めている。鹿島建設による施工の瑕疵については、原告である住民が立証を尽くしている。
 豊洲市場や久留米のマンションの設計における偽装の手口は、ほかの建物でも同様に行われており、全国的にみると天文学的な数となる。数が多いといっても、不正は不正である。その行為は厳しく罰せられるべきであり、建物も是正措置を講じて適法とすべきである。小池都知事は、豊洲市場の建築基準法令違反の事実を冷静に認識し、現実的な是正措置を図るべきであり、それが、東京五輪の成功や、防災・減災につながる。今こそ、小池都知事は英断を下すべきである。

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