2024年04月19日( 金 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(2)

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青沼隆郎の法律講座 第18回

(2)公益等認定委員会の法的機能―告発状のゆくえ
 「公益法人の監督」については公益認定法第三節以下(同法第27条以下)に所轄行政庁の「報告及び検査」が規定されている。所轄行政庁には必要な限度で、報告請求権、立入検査権、質問権が規定されているが、その端緒についてはとくに規定はない。

 しかし、同法には「公益認定の取消」という法概念が規定され、所轄行政庁の義務として規定されている。これは、公益財団法人が、一般財団法人として成立した後に、その公益性が認定され、公益財団法人となる法的経緯に対応して、一般財団法人という「私法人」まで逆戻りさせるだけで十分とする法政策である。

 これに関連して同法第3章以下(第32条以下)に公益等認定委員会に関する規定がある。同委員会は本質的には総理大臣の諮問機関たる独立行政委員会であるが、極めて重要な諮問業務がある。行政庁の監督処分や公益認定取消処分の最終的なチェックを行うことである。問題は、貴乃花親方の告発状が同委員会に提出された法的意義と、その後、撤回(取り下げられたこと)された法的意義である。条文上には総理大臣以外からの諮問が可能である旨の文言は存在しないからである。

 性善説的法文解釈をすれば、公法人に不祥事・違法犯罪行為があれば、当然、所轄行政庁は適切な対応をとるとの前提で、総理大臣の諮問により委員会が機能する。しかし、現実には所轄庁は貴乃花親方が協会を相手に訴訟でも起こさない限り、事件がいかに報道されようとも微動だにしない。とくに、監事から不正報告がない限り、報道は世間の喧騒にすぎないとされる。では現実に監事から不正報告がされるか。お友だちを任命することはこの国の上から下までの慣習であるから、友を裏切るような監事は日本中を探してもいない。そうであれば、所轄庁が現実に管理監督権を行使することはない。

 そこで、告発状という客観的な文書で所轄庁のチェック機関である委員会に協会の不正・違法行為が告知された場合、委員会の委員には、応用問題が提示されたことになる。無論、総理大臣からの諮問以外の諮問に応ずることはできない、と門前払いをすることが大方の予想として成り立つが、そもそも告発状は、本来、監督官庁が不正・違法事実を適切に把握・認知しておれば不必要なものである。つまり告発状は監督官庁の職務怠慢が原因である。委員会の究極の制度目的は、公法人における適法業務の確保であり、不正違法業務の排除であるから、形式的理由で、事実上、公法人の不正違法犯罪行為を放任することは本末転倒との謗りを免れない。この間の事情は告発状の取り下げとは無関係である。
 委員会が形式的に告発状を却下無視すれば、必ずや政治問題化する。

(3)行政権の管理監督義務
 行政権の機能を分類すると、法律に基づく公法的権利・利益の付与と法律に基づく国民の義務の履行・執行がある。前者の例が公法人の設立の許認可であり、後者の例が各種租税・保険料等の徴収である。当然ながら、行政権の管理監督義務は前者に関連して発生する。

 ただし、法令の条文上、管理監督が義務規定としての体裁で規定されている例はない。

 これは明らかに国民本位の立法技術・体裁ではない。国民主権の法治主義であるから行政庁は国民からの付託で行政権を執行している以上、付託に対する義務が当然ある。言い換えれば、義務があるかないかが、民主主義か封建主義・君主主義(その実体は官主主義)の分水嶺である。

 さらに、管理監督権があるということは、上下関係、支配関係を含み、これが、悪名高い「天下り」の温床をつくり出している。文科省の管轄下にある大学には、公立私立を問わず、事務職員はもとより、官僚出身の教授が多数いることは、公知の事実である。こうなると、必然的に管理監督権の行使には情実が含まれ(つまり天下りした先輩が引き起こした不祥事となるため)、可能な限り、公法人の不祥事は闇のなかに沈潜化してしまう現実となる。これでまた天下りは再生産が保障される。隠蔽は一石二鳥の手段となる。
 現在日本で多発している公法人の不祥事は、行政権の管理監督義務の不履行という側面から理解される必要がある。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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