2024年04月24日( 水 )

立地によらない新たな不動産価値 「個人のチャレンジ増やし、チャンス広げたい」

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(株)スペースマーケット 代表取締役CEO 重松 大輔 氏

 民泊やライドシェアなどで注目されるシェアリングエコノミー――。「空間の時間貸し」という分野で注目されるのが「スペースマーケット」を運営する(株)スペースマーケットだ。オフシーズンの球場や平日の結婚式場など、主に国内の遊休スペースを1時間単位から貸し借りできるウェブプラットフォームとして1万カ所以上の空間(スペース)が登録されている。すでに数回の資金調達を済ませた同社のビジネスモデルや今後の方向性について、同社の代表取締役CEO・重松大輔氏に話を聞いた。

世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを

 ――御社が手がけるマーケットプレイス「スペースマーケット」とは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか。

 重松 「スペースマーケット」は、ホスト(空間を貸したい個人・法人)とゲスト(空間を借りたい個人・法人)をつなぐプラットフォーム事業です。ゲストからは5%、ホストからは30%の手数料をいただいていますが、これが弊社の収益モデルです。ホストが空きスペースや会議室、マンションの1室などを「スペースマーケット」を通じてゲストの方に貸し出すものです。会議室やマンションだけでなく、平日の結婚式場や神社、球場など、登録されているレンタルスペースはさまざまです。

 ゲストのニーズもさまざまで、最も多いのはパーティー利用です。たとえば、ワールドカップを観戦しながら女子会を開くといったものです。また、変わったところでは田舎の古民家でコスプレイベントを開催するといったものもあります。これらの特徴としては、ロケーションに左右されにくいところ。むしろ、立地よりもつくり込まれた内装や世界観が評価される傾向にあります。

 それぞれが使い勝手が良く、わかりやすいサイト運営を心がけています。2014年と16年に約5億円の資金調達を行いましたが、サイトの利便性向上のためのエンジニアやデザイナー採用に調達資金を投入しました。今では全従業員の4割がエンジニアです。

もったいない「使われない会議室」

 ――ビジネスモデルの着想と起業のきっかけは、何だったのでしょうか。

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 重松 前職は通信系の企業だったのですが、あまり使われていないセミナールームをもったいないと感じたのがきっかけです。実際に貸し出してみたのですが、利用いただいた方に喜ばれ、貸した側からしても遊んでいるスペースの有効活用になったのです。わかりやすい例でいえば、六本木の月極駐車場の月額賃料は10万円程度なのですが、コインパーキングなどで時間貸しすれば、35万円ほど稼げる可能性もある。当たり前ですが、切り出す期間が短くなれば、稼働率次第でスペースの収益力は大きく上がります。これを仕組化したのが弊社のビジネスモデルです。

 ただ、起業からしばらくは非常に厳しかったですね。サービスの認知度が低く、IT企業らしくはないですが、ホストに対して「予約入っています。早く返信してください」などの連絡を電話でしていました(笑)。ただ、会話することで得られた貴重な情報も多く、無駄ではなかったと思っています。

 今では首都圏を中心に日本全国1万カ所以上の登録がございます。ホスト代行業者の方も年々増えており、登録件数増加に拍車がかかっています。福岡のスペースの登録数は、まだ全登録数の10%に満たない状況ではありますが、会議・パーティーなどの需要が徐々に増えています。今年8月には、テストマーケティングを兼ねて福岡でテレビCMを放映させていただきました。ウェブページへのアクセスが増えただけでなく、利用も増加するなど反響も多かったので、福岡での可能性を大きく感じています。とはいえ、申し上げた通りまだ登録数も少ないので、ホスト向けセミナーなどを通じて、弊社のサービス認知度を上げていきたい重要なエリアと捉えています。

 ――人気物件に共通するポイントには、どのようなものがありますか。

 重松 基本的に利用者は、住宅やビルなど建物の外観はあまり重要視されていないようです。利用する空間は室内メインのため、物件の新しさよりも清潔感がより重要です。また、テーブルや椅子などの家具、壁紙などを含めた部屋の雰囲気が、用途や好みによって選ばれているようですね。「SNS映え」する内装も稼働率を上げるために重要な要素です。あとは、写真の撮り方。どんな用途に使えるスペースかをイメージしてもらいやすいような、具体的なシーンの写真を使うことも有効です。もちろん、料金設定も大きなポイントです。

 使われていない空間の有効活用という面では、空き家の活用も盛んに行われています。たとえば、田舎の古民家を貸し切ったコスプレ撮影系のイベント利用は、リピーターも多く人気です。また、飲食店舗では、営業時間外のアイドルタイムを貸し出し、会議やママ会・女子会などの利用が増えています。逆に、新たに飲食店を始めたい人は、昼間だけor夜間だけを借りることで、大きな初期投資をせずに飲食店を開業することもできます。飲食店は厨房機器や賃料、保証金などの初期投資に大きな金額がかかりますが、これなら少ない投資で済ませることが可能です。多店舗展開の場合でも、ポップアップストアとしてテストマーケティングに利用することもできます。

 もちろん、住んでいる部屋を貸し出すことも可能です。「空いている空間」さえあれば、借り手が付く可能性があるため、多様な用途が考えられます。住んでいる部屋を貸し出して、家賃以上の収益を上げているホストの方もいらっしゃいます。これは宿泊ではないので貸し出すハードルが低く、チャレンジしやすい領域でしょう。昼と夜でニーズは変わりますので、それぞれ用途を変えて貸し出すこともできます。

 ――クレームとなった事例はありますか。

 重松 クレームについては、「部屋を汚された」などありましたが、スペースマーケットには、お互いについて評価し合うレビュー機能があり、お互いに信用を下げないようにするための動機付けがあります。利用者が増えてきたことで、この機能がより働くようになったと感じています。

「個人に力を」空き家活用にも活路

 ――今後の目標や重視している経営指標は何でしょうか。

 重松 スピード感をもって成長し続けるために「月の成約金額」や「コンバージョン率(成約率)」といった指標を重視しています。最も重要視している「月の成約金額」は、300%近い成長を続けることができていますが、サービスの使い勝手をさらに向上させるべく、ホストやゲストにとって使いやすいものに進化させています。また、需要創造につながるようなさまざまな取り組みにも力を入れています。

 ゲスト・ホストの成功体験の創出をするべく、カスタマーサポートならぬ「カスタマーサクセス」にも力を入れています。「どうやれば稼働率が上がるか」「どうやればゲストの満足度を上げることができるか」といった視点は、サービスに関わるメンバー全員が非常に大切にしています。しばらくはプラットフォーム事業だけで収益をつくっていくつもりです。

 ――プラットフォームとして確立すれば、周辺事業への広がりも検討できますが、考えているプランはありますか。

 重松 まずは「スペースマーケット」の使い勝手を向上させることに全力投入します。パーティー利用が人気ですが、立地にそれほど左右されないため、魅力的な間取りや内装であれば、不動産に新たな価値を付加することも不可能ではありません。さらに、空き家の活用方法としても、十分に検討できるサービスと自負しております。新たな価値を多くの方々に知っていただくために、空き家は事業化できる可能性もあるということをもっと知っていただくために、まずは使っていただきたいですね。

 ただ、おっしゃるように次の展開も考えています。パーティー利用では常に食事のニーズがありますので、最初はケータリングかなと思っています。圧倒的なプラットフォームの確立を最優先とし、次々に新たな事業をスタートアップさせていきます。

 ――最後に、「スペースマーケット」を利用するゲストやホストの方に、一言お願いします。

 重松 時間単位で不動産を借りる、という新しい利用方法は、今後スタンダードになっていくと思います。まだ「スペースマーケット」を利用したことがない方は、ぜひ一度利用していただきたい。使ってみると、不動産に対する感覚が変わります。

 ホスト代行サービスがすでに「スペースマーケット」のなかでもプレーヤーとして存在感を高めていますが、とくに九州では登録件数が少ないこともあり、まだまだ参入の余地はあると思っています。空室や空き家で困っている方は、一度利用してみてください。

 「スペースマーケット」は、個人に力を与えるサービスです。ゲストとして利用する場合は、必要なときだけ最小限のコストに抑えられる。ホストにおいても、空きスペースに新たな価値を付加して収益化することができる。今後、世の中に多くのチャレンジを産み、チャンスをつかむ人を増やすサービスに育てていきたいですね。

【永上 隼人】

<プロフィール>
重松 大輔

1976年、千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。2000年にNTT東日本へ入社し、法人営業企画、プロモーションなどを担当。06年、当時10数名の(株)フォトクリエイトに参画し、13年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月に(株)スペースマーケットを創業した。

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