2024年03月29日( 金 )

【福岡市の将来像】九大・箱崎キャンパス跡地に描く都市福岡の未来図(前)

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開始から13年を経て統合移転が完了

8月1日開催の
「平成30年度 第1回 九州大学移転・跡地対策協議会」

 九州大学(以下、九大)が2005年から進めてきた福岡市西区の伊都キャンパスへの統合移転が今年9月末、ついに完了した。9月29日には、同キャンパス内の椎木講堂で「伊都キャンパス完成記念式典」が開催され、国会議員や文部科学省などの関係省庁の関係者、自治体、大学関係者、地元経済界など約1,000名が参列。今後、伊都キャンパスを拠点として新たな時代を歩み始めるに際して、これまでの感謝と将来への決意を込めた「伊都キャンパス宣言」が九州大学総長・久保千春氏により公表された。式典後には、ノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授・大隅良典氏による記念講演や記念祝賀会も行われ、伊都キャンパスの完成が盛大に祝われた。

 遡ること1991年、九大では箱崎キャンパス(東区)や六本松キャンパス(中央区)などキャンパスが分散していたことに加え、建物の老朽化や福岡空港の航空機騒音に悩まされていたことから、箱崎および六本松両キャンパスと福岡県粕屋町の「原町農場」の統合移転を決めた。移転先となる伊都キャンパスは、丘陵地帯を切り拓いて整備された東西約2.5km、南北約2kmの約270haという国内最大級の敷地面積で、ヤフオクドーム約40個分。整備工事は2000年に着工し、05年の工学部を皮切りに、順次移転事業を進めてきた。

近代建築物群として保存・活用が予定されている
「旧工学部本館」

 今回、統合移転が完了したことで、伊都キャンパスには法学部や農学部など、文系・理系8学部の学生および教職員約1万9,000人が集結。今後、九大では新たな伊都キャンパスにおいて、産学連携の共同研究やAIやIoTなどの次世代技術の実証実験などを加速させていくという。

 一方、統合移転が完了したことで、大学としての機能をすべて伊都キャンパスに移してしまったことになる箱崎キャンパス。九大発祥の地である同地では現在、旧工学部本館などがある一部のエリアを除き、広大な敷地の大部分で一般の立ち入りが制限され、既存の建物などの解体工事が順次進められている。以前より注目を集めてきた箱崎キャンパス跡地における再開発が、これからいよいよ本格化していくことになる。

グランドデザイン策定、協議会でも活発な意見交換

※クリックで拡大

 周辺エリアも合わせると約50haもの広大な敷地をもつ箱崎キャンパス跡地の再開発をめぐっては、これまでにも段階的に協議が進行。まちづくりの方針については「跡地利用将来ビジョン」(13年2月)で、土地利用の方針については「跡地利用計画」(15年3月)でそれぞれ策定された。

 そして今年7月、福岡市と九大は「跡地利用計画」を踏まえ、九大・箱崎キャンパス跡地などにおいて、良好な市街地形成と新たな都市機能を導入するため、まちづくりに共通する整備ルールや将来の絵姿などを示すことを目的として、「九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン」を策定・公表した。

 グランドデザインでは、これまで検討されてきたまちづくりの方針や将来構想をベースに、「まちづくりの基本的な考え方」として、「イノベーションを生み出す新たな拠点の創出」と「高質で快適なライフスタイルや都市空間づくり」の2つを設定。そのための要素として、多様な都市機能の誘導のほか、まち全体の一体感の創出、周辺地域との調和・連携・交流、環境と共生した持続可能なまちの形成―などが挙げられている。また、福岡市が進めているプロジェクト「FUKUOKA Smart EAST」については、「まちづくりの全体像」という章の1項へと格下げし、それまで記載のあった「モビリティ」「ウェルネス」「シェアリング」といった文言を一部資料から削除。開発方針の段階での具体的すぎる事柄を盛り込むことに対する、住民の不安・懸念への配慮がなされたかたちとなった。

 さらに8月1日には、福岡市庁舎で「平成30年度 第1回 九州大学移転・跡地対策協議会」が開催。協議会には、委員となっている市議会議員のほか、市の担当者、九州大学担当者などが出席し、伊都キャンパス周辺で進む九州大学学術研究都市づくりの現状や、九大統合移転事業の進捗状況、六本松および箱崎キャンパス跡地でのまちづくりについて、活発な話し合いが行われた。

 「箱崎キャンパス跡地のエリア外ではあるが、九大の三畏閣(さんいかく)跡地にマンションが開発されると聞かされ、地元住民は困惑している。九大側も『売却したら後は知らない』ではなく、地域住民との定期的な対話も含め、もっと周辺地域との調和を考えながら進めてほしい」(綿貫英彦市議)。

 「六本松キャンパス跡地再開発地に入る道路は1本で、周辺では慢性的な渋滞を引き起こしている。消防などの緊急車両をどうするかも含め、もっと安全・安心への配慮が必要だ。この観点は、箱崎キャンパス跡地での再開発の際にも、忘れずに配慮してほしい」(冨永正博市議)。

 「福岡市にとって大学移転とは、重要なインフラにあたるのかどうか。箱崎キャンパス跡地は、『筥崎宮文化圏』に含まれており、単に大学の跡地を再開発するだけではない意味をもっている。以前、政府機能のバックアップ拠点を福岡市に、という意見もあったと思うが、そういった点も踏まえて、さらなる検討を進めていってほしい」(藤本顕憲市議)。

 これらは、各委員から出された箱崎キャンパス跡地に関する意見を一部抜粋したもの。もちろん、この意見が必ずしも市民の気持ちをそのまま代弁しているものとは限らないが、貴重な意見・提言として、いずれも一考の余地があるだろう。

地元住民や専門家による再開発への意見・要望

 今回、箱崎キャンパス周辺の自治会関係者や都市計画の専門家などに、「箱崎キャンパス跡地の再開発に望むもの」として意見を頂戴した。各々の立場によって、求める再開発の方向性や誘致すべき建物・機能への意見はさまざま。以下、寄せられた意見・要望の一部を紹介する。

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東箱崎校区自治会連合会会長 馬場 公司 氏

東箱崎校区自治会連合会会長 馬場 公司 氏(左)
東箱崎公民館館長 花田 健司 氏(右)

 ここ東箱崎校区は、九大箱崎キャンパス跡地がすっぽりと入るエリアです。今後、再開発が進んでいくなかで、約50haもの広大な敷地がどのように利用されていくかを考えた際に、地域として一番関心が高いのは「居住地域」のゾーンです。おおよそ2,000世帯・5,000人くらいの新たな住民が来ると想定されますが、我々は、そこでの自治会や町内会などの自治組織の立ち上げを希望しています。

 たとえば、東区の千早でも再開発が進んでいましたが、新規の住民が7,000人くらい増えても、誰1人として自治会に入っていないという現状があります。というのも、分譲する際に「自治会をつくらなくてもいい」と入居者に約束しているからです。そうなると、地域で一緒に何かやろうとしても、さまざまな障壁があって、実現が難しくなっています。

 ここ箱崎ではそういったことがないように、土地を開発する業者に「ここには自治会をつくる」ということを特約条項のなかに謳ってもらうよう、地域の声としてずっと訴え続けてきました。最終的に今回策定されたグランドデザインのなかに、「自治組織を立ち上げる」ということが盛り込まれており、九大も福岡市も約束していただいています。こうした自治組織がないことには、今後の高齢社会が進むなかで、地域の自助・共助の取り組みが難しくなります。

 今後、この箱崎の九大跡地でどのような開発が進められていくかは、選定された事業者が決めることです。地元として「あれもしていかん、これもしてはいかん」と口出しをして、まちの発展を阻害してはいけないと思っていますが、自治会のように「これだけは」というものだけは、きちんと訴えていきたいと思います。

(つづく)
【坂田 憲治】

(後)

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