2024年03月28日( 木 )

【福岡市の将来像】九大・箱崎キャンパス跡地に描く都市福岡の未来図(後)

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東箱崎公民館 館長 花田 健司 氏

東箱崎校区自治会連合会会長 馬場 公司 氏(左)
東箱崎公民館館長 花田 健司 氏(右)

 再開発後の箱崎・九大跡地の居住エリア以外については、オフィス街になるのか、商業施設になるのかはわかりませんが、“核”となる公共的な施設がほしいと思っています。福岡市や県、あるいは国が運営するような施設を中心に据え、そこからまちが広がっていくようなイメージですね。ただし今のところ、そうした核になり得る公共施設がまったく目に見えていません。

 もう1つ、樹木などの九大の植物資源などについては、再開発の際にはもちろん一部が犠牲になることもあると思いますが、できるだけ残したうえで、それと調和したまちづくりを進めてほしいと思います。それも地域の住民の願いです。あとは、箱崎の九大跡地でも元寇防塁跡が発見されていますが、そうした貴重な歴史遺産も目に見えるかたちで保存し、後世の福岡市民から、「良いモノをつくってくれた」「残してくれた」と思ってもらえるようなまちづくりを期待しています。

松島公民館 館長 三宅 勝彦 氏

松島公民館 館長 三宅 勝彦 氏

 やはり、100年後、200年後の未来に残るような場所にしていってほしいと思います。六本松キャンパス跡地では、高等裁判所と地方裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所の4つの裁判所が集約され、福岡における“司法の拠点”のようなまちになりました。ここ箱崎キャンパス跡地でも、同じように“核”となり得るような公共の施設がほしいですね。たとえば、防災施設を兼ねたような公園や、合同庁舎のような国の機関―個人的には、そういったものが良いのではないかと考えています。

 また、いつになるかはわかりませんが、もし将来的に道州制が導入された場合、ここ福岡市は九州における“州都”になることは間違いありません。そうした将来も見据えた場合、九州の中心にふさわしいような国の機関が必要だと思います。そして、そうした施設が来れば、それに付随して企業の支店やいろいろな施設も集まってくるでしょう。そうなると、この箱崎のエリアに賑わいも生まれてくると思います。ここ箱崎ならではの、一元的なテーマをもったまちづくりを進めていってほしいと思います。

(株)ZEN環境設計 代表取締役社長 中村 久二 氏

 40年くらい前に九大の教養学部が六本松に移転した際に、箱崎のまちの構図が変わってしまいました。教養学部があるころは、学生が箱崎のまちに住み、そこで消費活動を行うなど大学と地域とが密着していましたが、それがなくなったことで、やがて大学は閉鎖的な独立した空間へと変わり、実は地域経済にそれほど貢献しないという状況になってしまいました。これから、箱崎キャンパスの跡地で再開発が進められていきますが、私が期待するのは、この空間が再び地域に開放されていくこと。ここが孤立せずに周辺と一体となって、まちが発展していくことです。

 今回の箱崎の九大跡地では、たとえばどこか大手1社だけでデベロッパーを担うのではなく、マスターデベがいて、たくさんのサブデベが出てくるような複合的な開発が進められていくでしょう。イメージとしては、このエリア内で、六本松のような再開発がいくつもできるような仕組みです。デベロッパーとしては、本当はマンションなどの住宅を真っ先につくりたいのでしょうが、あまり人口が増えると、小学校などを新設しなければならず、そうなるとこのエリアの人口フレームはそれほど大きくはできません。

 たとえばここでは、天神や博多にある既存のオフィス街とはまったく違う、創造性のあるオフィス空間というものも面白いかもしれません。住宅街のなかにスモールオフィスがいくつもあって、このエリアに移り住んだ人がシェアワーキングできるとか、その近くにあるいろいろなオフィスとネットワークがつながっていくとか。私はそのように、箱崎に知恵や創造性などのいろいろなことが集まり、ほかの場所とは違うまちとして発展していくことを一番に期待しています。敷地も広いですから、多様性をもっていろいろなことができたらいいですね。

(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏

(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏

 現在、福岡は“イケイケドンドン”で成長を続けていますが、日本全体の人口が減少傾向になっているため、いずれ頭打ちになるでしょう。20年先、30年先といった未来を考えていく場合、たとえ福岡市であっても、都市というものが成長し続けていくことはありません。そうすると、今後は「どうやって都市を縮小していくか」という局面になっていきますが、この箱崎キャンパスの跡地においても、単に現在の状況だけでなく、そうした将来像を踏まえたうえでの再開発の観点が、私は非常に重要だと思っています。

 たとえば新宮町では、JR新宮中央駅前の都市計画において、開発地のど真ん中に下水処理施設があります。都市を支えていくうえで必要不可欠な、しかし忌避されがちな“迷惑施設”的なインフラを都市のど真ん中に据え、そのうえを公園にして巨大なグリーンベルトをつくったというのは、ある意味で周りの住環境の未来に対しての担保になっています。これが文化施設などであれば、1日や2日、あるいは1カ月止まったところで、そんなに大きな影響はありませんが、焼却施設や上下水道などは、1日でも止まってしまえば、市民の日常生活に多大な影響をおよぼします。もちろん、「この箱崎キャンパス跡地にそうした“迷惑施設”を集約すべき」という話ではないのですが、福岡市全体を見て、都市インフラを強固にしていく、あるいは補完していくために、この箱崎のキャンパス跡地がどうあるべきかを考えておく。たとえば、過密化した都市のなかで大きな空間を確保しておく、非常に重要な“余地”という機能を考えるのもいいでしょう。

 今の福岡市のような都市においては、土地というものが単なる不動産として扱われ、そこが“どのように収益を上げられるか”という観点だけでしか評価されていない現状もあります。箱崎キャンパス跡地は、福岡市の都市部において、今後まず出てくることがないであろう、まとまった広大な土地です。1つの小さなエリアの観点で考えるのではなく、もっと福岡市全体の長期的な戦略のなかで、都市計画および再開発を検討していくべきだと思っています。

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 箱崎キャンパス跡地の未来図について、地元の声・要望のほか、都市開発の専門家の意見などを紹介してきた。地元としては、移転によって学生などの若い活力が失われてしまった箱崎のまちに賑わいを取り戻すべく、何か目玉となる公共施設の誘致や、新たに増えるであろう住民との調和に主眼を置いた意見・要望が多いように思われた。なかには「九大より格上の海外の大学を誘致しては」といったような、九大の移転により失われた知の拠点を補完しようというような、やや近視眼的な意見もあった。一方で専門家からは、狭いエリアで物事を考えるのではなく、もっと福岡市全体のなかでの立ち位置の模索や、数十年先の将来における在り方の検討など、どちらかというとマクロな視点での意見・提言が多かったように思われる。こうした各々の立場からの意見や提言には、それぞれに説得力があるように思われるし、「どちらが良い」とか「どちらが正しい」と優劣を付ける類のものでもないだろう。再開発において、こうした意見・提言をすべて包括して実現できるのであれば、それに越したことはない。

 私見を述べさせていただくと、大前提としてこの地に求められるのは、郊外型の大規模な商業施設を誘致し、そこを核にマンションなどを配して都市開発が進められていく方向性では、決してないと思っている。福岡市の都市部におけるあれだけの広大な土地であるから、大手デベロッパーを始めとしたさまざまな開発業者が食指を動かしたくなる気持ちもわかるが、箱崎である必然性のない、どこにでもあるような開発が進むのだけは避けたいところ。個人的には佐藤氏の話にあるように、いずれシュリンクしていく福岡都市圏における箱崎の在り方を模索したうえで開発を進める方向性が良いのではないかと思う。たとえば国交省が、肥大した市域を今一度集約していこうという「立地適正化計画」などの取り組みを進めているが、この箱崎キャンパス跡地は筥崎宮の門前町としての歴史をもち、唐津街道にも面するなど、昔から人が集まってきた場所だ。昨今のように日本各地で自然災害などが頻発するようになった今、たとえばここに防災・減災に特化した機能のインフラ整備を進めていく方向性もありなのではないか。

 そう遠くない将来、人口が減少する局面となったときに福岡市はどうしていくべきか、そしてそのときに箱崎はどうなっているべきか―。そうした未来のことまで考え、箱崎ならではのユニークなまちづくりが進むことを期待したい。

(了)
【坂田 憲治】

(前)

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