2024年03月29日( 金 )

躍進するカンボジア・視察レポート(2)~急激な経済発展の背景にあるもの

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垣間見えるプノンペンの光と影

 10月22日、ツアー2日目。夜が明けて、ホテル8階の自室の窓から改めて外の景色を眺める・・・。

ホテルの自室の窓からの景色

 眼下を流れる雄大なトンレサップ川を挟んで対岸には、プノンペン王宮のほか、建設中のものも含めて多くの高層ビルが屹立していた。首都プノンペンにおいては、まさに今が都市開発ラッシュの真っ最中だということがうかがわれる景色だ。時折、3階建ての観光クルーズ船のような船も川を下っていく。観光客らが乗ったものだろうか、何とも優雅な光景だ。
 その一方で、ホテル側の川岸に目をやると、そこには幾艘もの小舟が連なるようにして浮かんでいた。それぞれの舟には、まるで馬車の幌のような屋根がしつらえられている。大都市といって差し支えないプノンペンにおいても、船上生活を余儀なくされている貧しい人々が暮らす舟だ。
 今まさに発展を遂げつつある大都市プノンペンと、その片隅でひっそりと暮らす船上生活者たち。ホテルの窓から見える、カンボジアの光と影とが1つの景色のなかに同居しているような景色に、何ともいえない複雑な感情を抱かされた。

 さて、一行は貸し切りバスに乗り込んでホテルを出発し、対岸に位置するプノンペンの中心部に向けてバスを走らせた。

 昨日は到着が夜だったため、明るい光の下で、改めてプノンペンの街並みを眺めてみた。実際に街中にきてみると、急激な経済成長の反動とでもいうべき“ひずみ”が随所に表れた、実に歪(いびつ)な構造がよくわかる。

プノンペン市内の様子

 たとえば、ホテルから見た “摩天楼”ともいえるような現代的な高層建築のすぐそばに、古びた低層の建築物が立ち並んでいる。――そうかと思えば、洗練された雰囲気のカフェや海外の著名ブランドが入居する商業施設、フランス植民地時代のコロニアル建築、中国やインドを思わせるような縦に長い3~4階建ての建物、崩れかけた粗末な建物、さらには伝統的なパゴダ(仏教寺院)、彫刻や装飾に彩られた都市公園など、さまざまな建築物が渾然一体となって形成されているのが、カンボジアの首都・プノンペンという都市だ。建築物だけでなく、街区ごとにまったく規格統一が図られていないガタガタの歩道、今にもショートしそうな乱雑に絡まった電線、道路脇に陣取った数々の移動屋台――。そんな新と旧、光と影とが入り交じったような混沌とした街中の光景は、異国情緒を感じるのと同時に、同じアジアの国だからだろうか、どこか懐かしいような、何とも不思議な印象を与えてくる。

 なお、交通事情の印象は昨夜とそれほど変わらず、自動車や二輪車、トゥクトゥクなどでごった返している。日中であっても、交通渋滞は慢性化しているようだ。交通マナーについては、もはや言わずもがなだ。

プノンペン市内の様子

 

 そうこうしているうちに、この日の最初の目的地である「プノンペンタワー」に到着した。

 

投資先としてのカンボジアの魅力や留意点

「プノンペンタワー」屋上からは、市街地が一望できる

 「プノンペンタワー」は、プノンペン中心部のモニボン通りに面する一等地に位置する22階建の大型オフィスビル。開業は2011年。屋上は開放的なスカイバーのようになっており、高い視点からプノンペンの街並みを一望できる。

 訪れたのは、同ビルの13A階に入居する、みずほ銀行のバンコック支店プノンペン出張所。ちなみに、この「13A階」という表記は、打ち間違えではない。
 カンボジアの階数表記には、フランス植民地時代の名残があり、日本でいう1階は「G」、日本でいう2階が「1階」となる。さらに、不吉な数字なのかわからないが、階数表記などに“4”という数字を使用するのを避けているようで、3階の次は5階に、13階の次は見慣れない「13A階」という、日本でいう「14階」にあたるフロアで、その次が15階になる。初見では間違えてしまうこと必至の、何ともややこしい表記だ。
 ・・・余談だが、このややこしい階数表示のため、我々もエレベーターを降りるフロアを間違えてしまった。

 みずほ銀行バンコック支店プノンペン出張所では、視察団一行をGeneral Managerの八木孝夫氏が迎え入れてくれ、同氏よりカンボジアの概況やASEAN各国との比較などについてのブリーフィングを受けた。

 現在のカンボジアは、かつてのポル・ポト政権下の大量虐殺の影響で国民の平均年齢が24.5歳と、若年層の比率が非常に高い歪な人口分布になっている。その豊富な若年人口を背景とした比較的安価な労働力に加え、タイやラオス、ミャンマー、ベトナムなどを含めた「大メコン経済圏」――“グレーターメコン経済圏”の中心に位置するという地理的優位性、緩やかな法制などの低い参入規制、外資優遇制度の充実といったさまざまな要因が重なり、経済活動が活発化。国際通貨基金(IMF)では、18年は7.25%前後という高い経済成長率を予測している。
 また、内戦終結後に国連の給与や金融支援などでもち込まれた米ドルへの信頼度が非常に高く、自国の公定通貨として「リエル」があるものの、市場で流通する現金の9割以上を米ドルが占めており、高度に米ドル化した経済を形成。ちなみに、おおよそ1米ドル=4,000リエルで換算されており、1米ドル以下のセントなどの硬貨は使用されていないため、買い物などでは1米ドルに満たない端数のお釣りはリエルで返ってくる。

 政治面では、1985年より約30年間以上にわたって、フン・セン首相率いるカンボジア人民党が政権を維持しており、実質的に長期の独裁体制にある。また、今年7月29日に行われた総選挙の投票率は約83%で、与党であるカンボジア人民党が得票率約77%と圧勝。これは、昨年9月に最大野党である「カンボジア救国党」の党首が国家反逆罪容疑で逮捕・起訴され、最高裁判所の命令により同党が解党させられたなかでの選挙結果であり、対抗馬がいないなかでの選挙結果には異議の声もある。
 なお、フン・セン政権下の政策は、意外とポピュリズム的で、それなりに国民の支持を得ているという意見がある。しかし、その一方で汚職や賄賂などが横行しており、そのことについて国民は強い不満を抱いているという。

 カンボジアへの投資の魅力としてはワーカーの労働コストが安価な点や、外資への規制水準が緩い点、充実した投資優遇を受けられる点などが挙げられる。一方、最大の課題として挙げられるのがインフラ面の整備状況。なかでも、電力については自国内だけで供給が追い付いておらず、周辺国から買電せざるを得ないことで、電力供給の不安定さや電気料金の高さがネックとなっており、これがとくに製造業の進出を阻む障壁となっているという。

みずほ銀行バンコック支店プノンペン出張所でのブリーフィング

 金融関連では、カンボジア国内の商業銀行は全部で39行(17年度末)。総貸出額は160億ドル程度で、日本でいうとちょうど大分銀行1行とほぼ同じくらいで、規模感としてはそれほど大きくない。かつての圧政の下、銀行預金を没収された経験をもつカンボジア国民にとっては、銀行への信頼度はかなり低いといい、“宵越しの金はもたない”ではないが、富裕層などを除いた一般国民にとって、貯蓄という考え方があまりないという。
 ちなみに、みずほ銀行は昨年4月に、邦銀として初めてカンボジアに営業拠点を構えた銀行である。八木氏曰く、同行では今後、世界38カ国に拠点をもつネットワークの広さを生かし、預金・貸出・インターネットバンキングなどの金融サービスを提供。日系企業を中心とした顧客のカンボジア進出や事業拡大などのサポートを行うことで、カンボジアの産業・金融市場のさらなる発展や人材育成にも貢献していくという。

 こうした説明を八木氏から受けた後、視察団からは質問などが活発に飛び交い、非常に有意義なブリーフィングの時間を過ごせた。

日本国大使を表敬訪問

 続いて一行は、在カンボジア日本国大使館を表敬訪問した。

 プノンペン中心部・ノロドム通りに面する在カンボジア日本国大使館では、入館するのにパスポートが必須。また、カメラやスマートフォンなどはもち込めないうえ、空港と同じような厳重な手荷物チェックを受けたうえで、ようやく入館が許される。やはり大使館ともなると、セキュリティが厳重なようだ。
 大使館内では、特命全権大使の堀之内秀久氏が我々を歓迎してくれた。

 戸田団長や大谷氏による表敬の挨拶の後、堀之内大使が語ってくれたのは、カンボジアの概要や歴史、日本との関係を含めた外交などについて。とくに、1975年からのポル・ポト率いるクメール・ルージュの台頭や79年からの内戦および大量虐殺など、91年にパリ和平協定が締結されるまでの期間の暗く凄惨な歴史は、カンボジアという国を語るうえで、決して外すことはできないものだ。そうした歴史を踏まえたうえで、その後、多くの国からの支援を受けて民主化と経済成長が実現。四半世紀をかけて、平和回復と領土保全、そして経済復興が進められ、今日のカンボジアが形成されているという。

 外交面では、日本との関係についてとくに重点的に解説していただいた。まず前提として、カンボジアは親日であるということ。たとえば、カンボジアの500リエル札には、日本のODA(政府開発援助)による無償協力で架けられた橋のほか、日本とカンボジア両国の国旗が並んで描かれている。自国の紙幣に、他国の国旗を描くというケースは極めて稀だといってよいだろう。カンボジアの親日ぶりを表す象徴的なエピソードの1つだ。

 カンボジアでは近年、日本から進出してくる企業も増加傾向にあるといい、2010年に50社だった日本企業が17年には184社に。日本との貿易額も10年の3.4億ドルから、17年には12.7億ドルとおよそ4倍に増加している。カンボジアでの在留邦人の数も、13年の約1,800人から17年には約3,500人と5年で倍増しており、経済面でも両国の結びつきは強固になってきている。
 ちょうど今年は、「日カンボジア友好65周年」の記念の年にあたるといい、堀之内大使は「日本とカンボジアの関係は、近年の日本企業のカンボジア投資の増加にともない、さらに深まっています。私も駐カンボジア大使として、そんな両国の交流がさらに裾野を広げ、より深く根を張っていくよう努めたいと思っておりますし、西日本・カンボジア友好協会の皆さまにも、いろいろとお力添えをしていただければ幸いです」と結んだ。

在カンボジア日本国大使館での記念撮影(中央右側が堀之内大使)

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 この日の昼食は、日本食店「D’s Japanese Restaurant」でいただいた。席に案内された我々の目の前には、新鮮な刺身がふんだんに盛られた「ちらし寿司」や、香ばしい「焼き秋刀魚の釜飯」など、いずれも日本で目にするものと比べても遜色ない料理が並んでいた。実際に食べても、どれもかなり美味しい。正直なところ、このレベルの日本食がカンボジアで食べられるとは思っていなかったので驚いた。

 午後の予定もみっちりと詰まっているため、各々が料理(とほんの少しのお酒)を楽しみながら、英気を養った。

日本食レストランでは新鮮な魚介類を堪能した

(つづく)

【坂田 憲治】

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