2024年04月25日( 木 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(6)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

青沼隆郎の法律講座 第18回

■親方の管理監督責任
 伊勢ケ濱親方は日馬富士の親方として管理監督義務がある。力士を相撲道の維持発展をさせる選手として育成指導をすることを目的として協会と弟子育成委託契約を結び報酬を受けているからである。本来なら、伊勢ケ濱親方が日馬富士から事情説明を受け、協会に報告する義務者である。それが、被害者の親方である貴乃花親方のみが事件の報告義務が追及され、警察から事件について他者への口外を禁止されていた貴乃花親方のやむなき事情聴取拒否の姿勢をもって報告義務違反を認定し、理事降格処分の根拠とした。高野委員長が事件の真実を調査する権限も必要もないことをさておいても、事件の真実を知る最適な人物が日馬富士らであり、その親方の伊勢ケ濱親方であるから、高野委員長は事件の真実を知るという口実で、貴乃花親方を攻撃したことは客観的にみて明らかである。そもそも伊勢ケ濱親方も貴乃花親方も事件現場にいたわけではないから、事件の真実を報告させるに適した人物ではない。これもまた、高野委員長の調査目的が事件の真実追及になかったことを雄弁に物語る客観的事実である。
 実際にも、高野委員会は貴乃花親方の報告義務の根拠を巡業部長の職責とした。親方の義務と構成すれば、誰もが伊勢ケ濱親方の責任が第一義と気づくからである。ここにも法匪としての狡猾さがあらわれている。

■巡業部長の報告義務
 上述のように、力士の犯罪についての報告義務は、直接体験した会員に発生する報告義務と、直接体験していないが、事件現場にいた当事者や目撃者に対する管理監督義務を介在して、関係者から事情聴取して協会に報告する義務とに区別される。後者の例を親方の報告義務として前述した。問題は事件が巡業期間中の深夜に発生したという理由で、何も知らない(共同謀議で隠蔽され)何も知ることができなかった、巡業部長に報告義務があるとすることの妥当性である。
 その前に、根本的な前提条件として、報告義務の具体的内容が確認される必要がある。伊勢ケ濱親方も貴乃花親方も事件現場にいなかったから、事件の内容はすべて伝聞であり、親方への報告者が真実を隠蔽したら親方らの報告自体には意味がないどころか、その(伝聞)報告を基に何らかの意思決定をすることは極めて危険である。
 結局、現場にいなかった者からの報告(つまり伝聞報告)にこだわる意味はまったくない。
 協会は貴乃花巡業部長にいかなる内容の報告を求めたのだろうか。協会は貴乃花親方がすでに貴の岩に被害届出を勧めた関係で、一切の事情聴取に応じないことを見越して、内容が何もないことを知って、形式的な報告請求を行った。客観的に、すでに協会が警察から連絡通知を受けており、それ以上の情報を貴乃花親方が保有しているはずもないのに、報告することを求めた。完全に処分の理由とするための演出である。
 巡業部長とはいえ、巡業期間中の深夜の力士らの酒宴行為にまで、管理監督責任があり、その報告義務があるとすることは不可能を強いることである。巡業部長としては事後的に力士らを呼び出して事情聴取が可能であるが、事件は最初から共謀共同して隠蔽されていたのであるから、正確な事情聴取が不可能な客観状況にあった。そこで真実究明のためにも、貴乃花親方が貴の岩に警察への届出を勧め、客観的真実の究明を司法官憲に委ねたことは、公益財団法人の理事としても会員親方としても最善の選択であったことに疑いはない。この最善の方法が、隠蔽体質の八角理事会には理解できなかったし、我慢がならなかったに過ぎない。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

(5)
(7)

関連記事