2024年04月25日( 木 )

日産自動車ゴーン追放のクーデター!~仏ルノーによる日産の買収阻止を狙った西川社長ら「民族派」が決起

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 東京地検特捜部は11月19日、有価証券報告書に自らの報酬を約50億円少なく記載した金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役会長をグレッグ・ケリー代表取締役とともに逮捕した。この事件は、仏ルノーによる日産の買収阻止を狙った「民族派」によるクーデターだった。

ゴーン追放は「不正の除去」という名のクーデター

 日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)は11月19日、ゴーン会長の逮捕を受けて、横浜市の日産本社で記者会見し、ゴーン容疑者の代表取締役会長としての職の解任を、22日に開く取締役会に提案すると発表した。

 読売新聞電子版(11月20日付)は記者会見の内容をこう報じた。
 「日産によると、内部通報に基づき、数カ月間にわたってゴーン、ケリーの両容疑者について調査した。その結果、(1)実際の報酬より少ない金額を有価証券報告書に記載(2)私的な目的で日産の投資資金を使用(3)会社の経費を不正使用――という不正行為が判明した。ケリー容疑者は、ゴーン容疑者の不正に深く関与した」

 記者との質疑応答で、西川社長は「調査の結果、不正が出て、除去する。クーデターという風に受け止めていただきたくない」と口にしたが、日産の最高権力者として君臨するゴーン会長を「除去」したもので、これは明らかなクーデターだ。
 では、西川社長たちはなぜ、クーデターを決起したのか?
  これもはっきりしている。仏ルノーによる日産の買収を阻止するためだ。

マクロン仏大統領はゴーン氏の『天敵』

 仏ルノーは今年2月15日、カルロス・ゴーン氏がCEOを続投すると発表した。ルノーの筆頭株主である仏政府が、ゴーン氏が後4年CEOを延長することを認めたからだ。一時は、CEO退任というのが有力だった。なぜならばゴーン氏は仏政府と対立していたからだ。

 2017年5月14日、エマニュエル・マクロン氏が仏大統領に就任した。マクロン氏は、 ゴーン氏の“天敵”といえるほど対立関係にあった。
 ことの発端は、14年8月に支持率に伸び悩むオランド政権が、マクロン氏を経済産業相に起用したことだ。銀行出身で38歳の若き改革の旗手マクロン氏が目を付けたのがフロランジュ法だ。
 フロランジュ法は、2年以上株式をもつ株主に1株あたり2票の議決権を与えることを認めている。この法律は、鉄鋼大手アルセロール・ミタル(ルクセンブルグ)が仏北東部のフロランジュ製鉄所を閉鎖した時の失業問題で、仏政府が批判を受けたことからつくられた。
 フランスはほかの欧州連合(EU)加盟国より失業率が高く、景気回復が遅れている。仏政府は、この法律を企業に雇用維持を求める道具に使うことにした。
 ルノーの筆頭株主である仏政府は保有比率を約20%に買い増して、15年4月の株主総会に臨んだ。ルノーはフロランジュ法適用の反対を提案したが、仏政府の抵抗で否決された。その結果、同法により、仏政府の議決権は16年4月、約28%に増える。ルノーの経営の重要事項に対し、仏政府が事実上の拒否権をもつようになった。

 これに懸念を強めたのが日産だ。日産の筆頭株主はルノーで、株式の43.4%をもたれている。仏政府がルノーの議決権を拡大すれば、ルノーを通じて仏政府が日産の経営に介入することが可能だ。かくして日産とルノーは、仏政府の干渉を回避すべく交渉に乗り出した。
 17年の仏大統領選の最中、ゴーン氏は「仏政府がルノーの株主にとどまる限り、日産はいかなる資本構成の移動も受け入れない」と主張。仏政府の出資の引き揚げまで促していた。

ゴーンの仏ルノーCEO続投の条件は「日産を買収せよ」

 ところが、ゴーン氏の“天敵”であるマクロン氏が仏大統領に就任し、ゴーン氏は窮地に立たされてしまう。ルノーの筆頭株主である仏政府の発言力は絶大だ。18年6月に開かれるルノーの株主総会で、ゴーン氏はCEOを更迭されるという観測まで浮上していた。

 ところが、仏政府は一転、ゴーン氏のCEO職の4年の延長を認めた。ゴーン氏とマクロン氏は、なぜ手打ちしたのか。
 ゴーン氏は、ルノーCEO続投の人事案の決定にあたり、マクロン大統領が批判の槍玉に挙げる報酬の3割減額に応じた。ゴーン氏の700万ユーロ(約9億円)に上る高額報酬に仏国民の間でも批判が高まっていた。

 見返りの条件はこうだ。仏政府が、ゴーン続投に同意する条件として、ルノー、日産自動車、三菱自動車の3社連合の「深化」を求めたということ。
 「深化」とは何か。その内容がやがて明らかになる。

 ブルームバーグ通信(18年3月29日付)は、「日産・仏ルノー連合は解消され、単一の法人となる。両社の会長を務めるカルロス・ゴーン氏が統合後の新会社を率いる。(中略)ルノーの株主が新会社の株式を受け取り、日産自の株主も持ち株と新会社の株を交換する合併案が検討されている」と報じた。

 仏ルノーが株式交換方式で日産を買収するというものだ。日産の存亡にかかわる重大な問題にもかかわらず、この報道は、日本ではほとんど伝えられなかった。日産の渉外・広報を担当する役員が火消しに回ったからだといわれた。
 マクロン大統領の目論見は、ルノーが買収する日産を仏企業にして、フランスに日産の自動車工場を建設して雇用を増やすことだ。

「ルノーが日産をのみこむ」がクーデターの起爆剤

 「ルノーが日産をのみこむ」。これに日産は猛反発。ゴーン会長と“ミニゴーン”と呼ばれる西川社長の亀裂が深まった。

 ブルームバーグ通信(18年5月23日付)は、「日産の西川社長は、合併の必要性には懐疑的な姿勢を公にしている。ゴーン氏は日産側に『抵抗があるとは考えていない。パートナーとして取り組んでいこう』と呼び掛けた」と報じた。

 結局、両者が和解することはなかった。ゴーン氏が仕掛ける仏ルノーによる日産の買収が、ゴーン氏を追い落すクーデターの起爆剤となったのだ。
次は、日産がルノーと資本提携を解消して独立することだ。賽は投げられた。

【森村 和男】

関連記事