• このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年11月26日 13:41

現実を認めたがらない人たち(前)

大さんのシニアリポート第72回

 映画監督の是枝裕和氏がプロデュースした「十年 TEN YEARS」を観た。是枝氏が選んだ5人の新進監督が、「10年後の日本」を脚本制作したオムニバス作品である。
 (1)『PLAN75』(監督:早川千絵)、(2)『いたずら同盟』(監督:木下雄介)、(3)『DATA』(監督:津野愛)、(4)『その空気は見えない』(監督:藤村明世)、(5)『美しい国』(監督:石川慶)の5作品。いずれ起きるだろう日本の近未来を描いていて、見応えのある作品となった。とくに、『PLAN75』には衝撃を受けた。

 『PLAN75』は、高齢社会を解決するため、75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する国の制度である。将来に希望を見い出せない高齢者に、公務員の伊丹(川口覚)が死のプランを勧める。
 「ただ、膏薬を貼るだけ。痛みも不安もありません。支度金として10万円差し上げます。好きなようにお使いください」という。10万円を受け取って笑顔を見せる高齢者。プランの対象は貧乏人。関係部署の課長はいう。「裕福な高齢者は、消費することで国に多大なる貢献が期待できる。貧乏な高齢者は、国の金を無駄遣いするだけだ」と。

 生産性の見込めない不要な高齢者を始末する政策である。衆議院議員・杉田水脈氏の「LGBTの人たちは生産性がない」発言と見事に合致する。
 監督の早川氏はこの作品の制作意図を、「社会に蔓延する不寛容な空気に対する憤り。それがこの作品をつくる上での原動力でした。弱者に対する風あたりはますます強くなり、〝価値のある命〟と〝価値のない命〟という思想が、世の中にすでに生まれているような気がしてなりません。他者の痛みに鈍感な社会の行き着く先が、どのような様相を呈するか、『穏健なる提案』を映画で表現してみたいと思いました」と『十年』パンフレットで述べている。

 安楽死の国家的容認である。日本では安楽死も尊厳死も法制化されていない。平成26年11月4日の「朝日新聞」に、「末期がんで余命半年と宣告され、安楽死を予告していた米国人女性のブリタニア・メイナードさん(29)が1日、予告通り自らの死を選んだ。米オレゴン州の自宅のベッドで家族に囲まれ、医者から処方された薬を飲んで、安らかに息を引き取ったという」。安楽死が認められている国は、オランダ、スイス、ベルギーとアメリカの一部の州などで、まだまだ少ないのが現状だ。日本尊厳死協会発行のカードに「延命治療拒否」と記入しても、エンディングノートや遺言状にその旨を記入しても、担当医が殺人罪や自殺幇助罪などに問われては尻込みする。

 実際、映画のように「不要な人間の合法的な処理」のために安楽死が容認されることはないと考えたい。ただ、国家主義を唱える人たち(生産性の認められない高齢者や障がい者は国家のためにならないと考える)のなかには、こうした考えを「個人の自由意志(希望)」というかたちにすり替えて実施するかもしれない。
 映画『PLAN75』でも、「希望者」としているものの、国の「死のプラン」を最前線で勧誘する公務員の伊丹にも、やがてノルマが課せられてくるだろう。実際には2050年ごろを境に団塊の世代の高齢者も減り始め、必要とされているさまざまな施設も不要となるときが必ずくる。映画のような「安楽死計画」は実際にはありえないのだが…。

 一方で、国策としての「安楽死」を必要としない「死」が身近に迫っているにもかかわらず、それを認めたがらない人が存在することに驚かされた。みずから「孤独死」(緩慢な自殺)を選択する人たちのことである。場所は運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)でのこと。常連客2名が考えられない行動にでたのである。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2019年02月22日 10:30

【特別レポート】黒く塗りつぶされる島~逮捕者2人、死者1人を出したメガソーラー事業で揺れる宇久島(2)

   佐世保市沖に浮かぶ小島、宇久島。壇ノ浦の闘いに敗れた平家盛(平清盛の弟)が落ち延びたという平家伝説の地に2014年6月、大規模な太陽光発電(メガソーラー)...

2019年02月22日 17:42

理研ビタミン、わかめの産地を判別する特許技術とトレーサビリティシステムで品質保証体制を強化

   理研ビタミン(株)(本社:東京都千代田区、山木一彦社長)は21日、わかめの主要4産地を判別する特許技術と「トレーサビリティシステム」を組み合わせて品質保証体制を...

2019年02月22日 17:29

福岡市地下鉄七隈線天神南~博多間軌道工事、松本組が7億で落札

   福岡市交通局発注の「福岡市地下鉄七隈線(天神南~博多間)軌道工事」を、15日、(株)松本組が7億3,316万7,000円(税別)で落札した。 【代 源...

2019年02月22日 15:47

TSUTAYAに課徴金1億1,753万円支払い命令~消費者庁

   消費者庁は22日、(株)TSUTAYAに対し、同社が供給する動画配信サービスの表示が景品表示法第8条第1項の規定に違反するとして課徴金納付命令を行った。 ...

2019年02月22日 15:46

ヤマトHD創業100周年でトップ交代、新社長に長尾裕氏

  新社長 長尾 裕 氏  ヤマトホールディングス(株)(本社:東京都中央区)は21日、代表取締役社長・山内雅喜氏が代表権のない取締役会長に就...

2019年02月22日 15:05

オーイズミ元社員、パチスロ機を12万で売りさばく

   遊技機の製造・販売などを手がける(株)オーイズミ(本社:神奈川県厚木市)の元社員が、2018年8月頃、同社の倉庫に保管されていたパチスロ機1台を売却、横領したと...

2019年02月22日 15:00

中小企業への理解を深めよう

   大手企業と中小企業は具体的にどんな会社を指すでしょうか。その定義は中小企業基本法という法律で業種ごとに明確に決められています。この法律では、中小企業者または小規...

2019年02月22日 14:35

グローバル市場で成長を続ける 国際物流事業パイオニアの強みとは(1)

  西日本鉄道(株) 国際物流事業本部 執行役員副本部長兼営業企画部長 黒飛 茂樹 氏 西日本鉄道(株)は利用運送業者として世界27カ国・地域...

2019年02月22日 13:51

西部ガス、吉川工務店を買収~不動産事業を拡大

    西部ガス(本社:福岡市博多区、酒見俊夫社長)は22日までに、吉川工務店(本社:福岡市中央区、吉川啓二社長)とその関連会社の吉祥開発(本社:福岡市中央区、吉川和...

2019年02月22日 13:30

福岡市イタリアンの名店跡 デベロッパーが購入

   イタリア料理の名店「サーラカリーナ福岡店」(福岡市中央区御所ケ谷)の跡地を地場デベロッパー(株)タイヘイ(本社:北九州市)が取得していたことがわかった。取得日は...

pagetop