2024年04月19日( 金 )

内田は無罪か?日大アメフト事件に見る「日本の法律は世界の非常識」(3)

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青沼隆郎の法律講座 第19回

内田無罪論の骨子

 警視庁は内田監督が宮川選手に違法タックルを指示した事実は確認できなかったとした。その無罪論の根拠となった事実の1つは、すでに公表された有罪論の決め手となった違法タックルの直後の内田監督と井上コーチの会話「宮川がやりましたね」「おお」という会話を近隣にいて聞いたとするチームメイトの証言の撤回と、違法タックルの直後のビデオ映像からは内田監督が宮川選手の違法タックルを見ていないと判断されることと、井上コーチは内田監督から離れた場所でほかのコーチと会話をしている映像から、2人の間には有罪認定とされた会話事実そのものがないとされた。

 「法律的」真実論の致命的背理は結論を支える事実が恣意的かつ選択的であることである。結論に不都合な事実の一切が無視されるか強引に否定される。場合によっては都合よく証拠が捏造される。

(1)内田指示の存否の判断
 最も決定的証拠は宮川選手自身による自白である。この自白が虚偽ないし誤解によるものとの証明が尽くされない限り、内田指示の存在は否定できない。

 ただし、宮川選手の自白によれば、自身が直接、内田監督から違法タックルの指示を受けたという事実は存在せず、内田監督の指示は井上コーチを介して伝達されている。従って、内田指示の否定は井上コーチによる指示伝達行為の不存在を証明することになる。

 警視庁の内田無罪論では、この決定的事実関係に関する捜査報告がまったく存在しない。井上コーチは宮川自白の直後に直ちに記者会見を開いて内田指示の不存在、宮川選手への指示伝達を否定しているが、警視庁は一体何をもって井上コーチの証言が真実であると判断したのかがまったく示されていない。

 宮川選手の自白は具体的な事実によって構成されており、井上コーチはその具体的事実の1つ1つが虚偽であることを立証しなければ、自白の証明力を否定したことにはならない。

 井上コーチの証言は単なる全否定であり、自白の信用性・証明力を否定したものではない。具体的な事実によって構成された宮川自白と単なる全否定の井上コーチ証言とのどちらが真実であるかの論理的判断の問題である。

(2)重大な証拠法の誤用・濫用
 刑事被告人の自白には補強証拠が必要である(憲法第38条第3項)。これは刑事被告人の自白が拷問や利益誘導などの真意に基づくものでないものが多数存在した過去の歴史的経験則を憲法で明文化したものである。従って、そのような可能性のない民事裁判では証人の証言についてさらに「客観的」「物証」を求めることはない。

 ところが、警視庁の無罪論では宮川自白には補強証拠がないため信用できないと、とんでもない暴論を展開した。宮川自白にはもともと客観的補強証拠など存在しない。宮川選手と井上コーチとの間で内密に交わされた会話だからである。このような客観的状況を無視して、補強証拠の不存在を理由に宮川自白の信用性を否定することは論理的に背理である以上に明らかに先に宮川自白の存在を否定する意図のもとに、詭弁論を展開したもので、悪質な証拠法理の悪用・濫用である。

 警視庁の無罪論には、さらに重大な犯罪的証拠法論理の濫用がある。それが、悪質タックルの後に井上コーチと内田監督による「自認会話」の存在を証言したチームメイトの証言の撤回である。極めて重大な犯罪的結果であるため、一度だけ報道されたが、二度と報道されていない。国民には何時でもその被害に会う可能性があるという意味で、しっかりその違法性・犯罪性を理解していただきたい。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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